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3話 再会と会話はぎこちなさをもって



「ああいう奴、結構いるの?」


すっかり調子を戻した紬を椅子に座らせ、朝陽もその横に腰かける。それで、と話を仕切り直した。それから紬に尋ねる。ああいつ奴とはつまり、先ほどの男のような奴ということだ。


「ううん、あんまり。あ、でも前に一回ね、似たようなことがあって。その時は友達がそばに居てくれたんだけど。それからはなるべく人の多いところでしか話さないことにしてるの」


過去の経験を話す彼女の顔は、やはり少しだけ強ばっている。モテる女の子は大変だ、などと呑気な同情を向けていたが反省がいるらしい。思ったよりずっとハードだ。


そうなるとやはり先ほど咎めるような物言いをしたのは、大間違いだったであろう。時間差でもう一度羞恥が襲って来た。



「ああそれで。ちょっと前にも見たんだ、告白されてるとこ」


思い出したのは、あの日教室で真尋と見た光景だった。目立つ場所で告白される学年でも抜けて人気の女の子。それは嫌でも目に入る。


揶揄うつもりも皮肉のつもりもなかった。ただ単純に見たよ、という報告程度だった。


「……見られてたんだ」


真横に座る彼女は朝陽から顔を背ける。それでも赤らんだ耳や首が、彼女の羞恥を伝えてくれた。


それに触れるか否か。常識的な思考からすれば、わざわざ指摘するのはナンセンスだろう。ただここに来て朝陽の悪い癖だ。


「首まで赤いね」

「わざわざ言うかなあ!ふつう。もうっ、あんまり見ないでよ……」

「それって告白を?それともその照れ具合を」

「……さいあく。そうだ、こういう人だった……」

「だって今さらじゃない?入学してからしょっちゅう見たよ」

「それはそうなんだけどっ!もうっ」


すっかり緊張はなくなったのか、声を荒らげた。以前のような会話ができることに朝陽は内心で安堵した。それから、顔を赤く染めて拗ねる彼女に、つい笑い声が漏れてしまう。


「笑わなくてもいいじゃん」

ジトっとした視線を向けられる。それに対しては、笑顔で首を振った。


「別にバカにしてるとかじゃないんだよ。あんまり変わってないなって」

「……変わってない?」


ワントーン低く、じめついた声だ。朝陽はあえてカラッとした声で言う。


「うん。中身はね。見た目の雰囲気は、たしかに変わったけど」


朝陽が言葉を区切ると、彼女は目に見えてようすが変わる。どこかぎこちない会話が繰り返された後、おそるおそるといったようすで伺うように朝陽を見た。


この景色を、ほかの男子に知られたらどうなるかな。たしか彼氏がいたらそいつは殺されるらしいから、多分殴れるくらいか。そんな無意味な想像が脳内を巡った。


「や、やっぱり変……かな?」

「ん?いや全然。可愛いと思うよ」

「か、かわいい……」



途端に黙り込む紬。今度狼狽えたのは朝陽の方だ。中学卒業以来、久々の会話に勝手を見失っている。


「変な意味じゃないからね?それに散々言われてるだろうから、今さらだろうし。ああ、それと別に前が可愛くなかったって意味でもなくて」

「わかった、わかったから!その、私にもキャパがあるのでっ」

「キャパ?」

「ああ、もうっ!なんでもないですっ!」


彼女が一通り怒ったあと、しばしの沈黙。それから今度は紬が吹き出すように笑った。朝陽は少し目を丸くした。


「ごめんごめん、なんか安心しちゃって」

「さっきの?……ごめん、もっと早く声をかければ良かったね」

「それはいいの。そうじゃなくてね、朝陽くんとこうやって話せて。というか話しかけてくれて?」


そう言って首を傾げる彼女に釣られて、同じように首を傾げる。傾げた先でまた目が合って、それがまた可笑しかった。


「いつからか、すっかり話さなくなっちゃったでしょ?嫌われちゃったりしてないといいなって、思ってたから」

「僕は嫌いになったことなんて、一度もないよ」

「……ずるいなぁ、もう」


むくれる彼女に、一段と深く首を傾げる。目は合わなかった。彼女はむしろ反対に視線を流している。



「……ごめん、僕にはそれあんまりよく分からないんだけど」

「ううん、わかんなくていいの。とにかくっ!朝陽くんがね、前と変わってなくて嬉しいってこと」

「……そう。それが成長してないって意味じゃないことを祈ってるよ」

「ふふっ、そういう変な照れ隠しも一緒だね」

「……そっちこそ。意外と余計なこと言うところが変わってないのは、残念だよ」


それから、誰もいない静かな部屋には二人の声だけが小さく響いている。そんな穏やかな時間が、なんとも嬉しくて。せめてもの時間を楽しんだ。



チャイムの音が鳴って、会話は止まる。そろそろ帰ろうか、と切り出したのは朝陽の方。紬も少しの逡巡の末、ゆっくりと頷いた。


廊下を並んで歩く。ふと中学の頃の記憶が過ぎった。それからいつかの思い出も巡る。


「白瀬さんはさ、あのとき……」

思わず出た言葉だった。


「いやなんでもないや。それよりさ……」


紬も緩やかに頷く。お互い深くは聞かない。それが互いのためだと理解していた。


あのときほんとはどう思ってたの。そんな言葉が浮かんで、消した。






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