13話 イブと二次会と邪魔
「どうも、朝陽の唯一無二の親友をやらせてもらってます、永井真尋です。ちゃんと話すのは、もしかして初めてかな?よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
「唯一は余計だ」
満面の笑みで頷く真尋と、やや気まずそうに横に目線をやる紬。真尋の横でひどく渋い顔をしているのは朝陽だ。
「次は私の番ね。同じく紬の親友で、出水楓です。よろしくね」
今度は紬が引きつった表情を浮かべた。紬と朝陽はそっと顔を見合せて、似たような笑みを浮かべた。苦笑いというか、どちらも互いを同情し合ったようなものだった。
どうしてこうなった。四人で座るテーブルで、朝陽は頭を抱え、いっそ叫び逃げ出したい衝動に駆られる。
『ごめん友達もついてきちゃうかも』
そんなメッセージが送られてきた。浮かんだ名前は、たしか楓と言ったか。聞いている限り、紬のことを大切に思っていることは窺い知れた。その相手が突然ひとりで抜ける、それも一応はクリスマス会のあとに。そうなれば心配するのも、当然のことではある。
『気にしないで。残念なことに僕の方もひとり厄介なのが来そうです』
そう送った。
「お前さ、なんでついて来るんだよ」
朝陽がそう文句を言うのは、真尋である。ファミレスへ移動しようとなった時、帰ることを宣言した朝陽にそのまま彼はついて来ている。
「えー、だって君帰るんだろう?なら俺も同じ方向だもん」
「だもん、じゃねえよ。ほかに行くとこあるって言ったろ」
「そりゃ俺だって、もし君がデートだって言うなら素直に帰るさ。でも別にひとりでやる用事なら、一緒だって構わないだろうさ」
「……今日はずいぶんしつこいな」
「君もね」
会話はそこで途切れる。紬からの通知が届いたのは、そんな沈黙の最中である。
「良かったな、お前も来ていいことになったよ」
「やっぱり誰かと会うんじゃないか!」
真尋は小さな笑い声を漏らしながら、揚々として隣に駆け寄った。小さな舌打ちには聞こえないふりをして。
結局合流した二人の側にはそれぞれの友人が一人ずつおまけで付いている。ため息は二人同時にだった。
「俺ドリングバーつけちゃお。朝陽は?」
「まあ誰かつけるなら僕もつけるさ。ふたりは?」
自己紹介を済ませたあたりで、真尋の言葉をきっかけにメニューを開く。ふたりも鷹揚に頷き、結局はドリンクバーを四人分、ひとまず注文した。
「悪いね、せっかく抜けてきたってのに。行くとこと言ったらファミレスで」
楓は先に席に戻り、真尋は妙にもたついている。幸いにして二人で話す機会を得た朝陽は、一歩紬に身を寄せた言った。
「ううん平気、楽しいから」
「そう?変なおまけが付いてきてるから困ってない?」
「それで言うなら私の方にも付いてきてるけど?」
「そりゃそうだ。お互い苦労するね、いい友達ってのを持つとさ」
そうだね、と紬は笑う。それを見て朝陽も笑った。予期せぬサプライズはあったものの、平和な時間だった。
「それで二人はいつからまたこんなに仲良くなられたので?二人で抜け出そうなんて、中々だよね」
頼んだ軽食が届き、一息ついた頃に真尋が切り出す。リアクションは各々多様だ。楓は幾度か頷き、紬は露骨に狼狽えている。朝陽はこの面倒なことを言い出した友人に視線を送ったものの、やはり無視である。
「何が言いたいんだよ。別に何でもいいだろ」
「いやあだってさ、君が女の子と仲良くしてるってだけで珍しいのに。相手が白瀬さんってなると……ねえ?」
ねえ、と問いかけたのは紬に対して。彼女は言葉に詰まったようすだ。
朝陽は面白くなさそうに、手元にあるコーラに口をつけた。
「中学が一緒なのはお前も分かるだろ。僕は前からちょっと交流があって、それが最近になって復活したって話さ」
早口でまくし立てるように言う。それから、これで満足かと尋ねると、真尋は肩を竦めてそうなんだとだけ答えた。
「中学の頃、どんな感じだったの?ふたりは」
今度は朝陽のななめ前に座る楓が尋ねる。
直接の交流がないせいで妙に気まずく、あしらうこともできない。仕方ないと言わんばかりに息を吐いて、そちらへと体を向き直す。
「まあ、友達?でいいのかな」
紬に視線を送れば、ややあって頷く。
「そう」
返ってきた答えはそれだけ。続いては誰も口を開かない。
沈黙の気まずさに、朝陽はコップの中身を全て飲み干すと補充のためだと言い席を立った。
まるで尋問だなと思う。自身の友人である真尋は、あれはまず間違いなく好奇心だ。からかうとは違うが、単純に面白がっているだろう。
問題は白瀬紬の友人である楓だ。彼女に関しては、おそらくは自身のことが気に入らないのだろう。少なくとも朝陽はそう考えた。
ま、あんだけモテる日々だと近づく男には心配になるだろうな。
そこまで考えて、思わず笑みをこぼした。こんなに華やかなクリスマスイブという日に、ずいぶんとネガティブな思考だ。我ながら自虐的すぎた。
「まあ朝陽はね、意外とやんちゃボーイだから。中学の頃に補導されたこともあって……」
「おい」
「あ、おかえりー」
席に戻れば、真尋は嬉々として朝陽のことを語っている。厄介なのは紬がやけに前のめりに話を聞いていることだ。こうなると注意しようにも気が引ける。
「真尋、お前あんまり余計なことを喋るな」
「だって聞きたそうにしてるから」
「そ、そんなことないよっ!ちょ、ちょっとだけ」
額に手を当てため息を吐く。慌てたのは紬の方で、肝心の真尋はむしろ笑みを深めている。
「補導されたって言っても、ゲーセンでな。八時以降ダメらしくてさ。ほら、あんなところ時計なんかないだろ。それで偶然一回だけ」
キッパリと言い切りながら席に座る。それから目の前に置かれたポテトに手を伸ばした。
「というわけで。僕はやんちゃどころかひどく大人しいタイプだと自認してるんだけど」
手についた塩を軽く舐めとったあたりで、慌てて女子の方へと視線をやる。少々品のない行為を見咎められる恐れがあると思ったからだ。幸い嫌そうな顔はされていないことに安堵した。
「君は大人しいというか無愛想なとこがあるから。白瀬さん、朝陽にムカついたら教えてね。俺の方から注意しとくよ」
「そのときはぜひ」
紬は笑顔混じりで応じた。その光景に、朝陽は内心ではモヤモヤとしたものを抱いた。
「ずいぶん打ち解けたみたいで。僕も嬉しいよ」
「そんなしかめっ面で言われてもな。でもほら、俺も一応は中学から一緒だから。少しは共通の話題もあるんだよ」
話すのは初めてだからなおさらね、と加えた。
変に落ち着かない視線を流せば、今度は楓と目が合う。たしか彼女とは、一度だけ話したことがあったはずだと思い出した。
「私飲み物もらってくるね」
彼女はそう言うと、お前も来いと目で訴える。少なくとも朝陽はそう読み取った。席を立っ彼女について、その後ろを遅れて歩いた。やや行って止まった彼女の側へと、一歩半ほど近づいた。
「香坂くんはさ、紬のことどう思ってたの」
前を向いたまま話す彼女とは目も合わない。
「難しいな。でも、僕は友達だと思ってたよ」
「じゃあ、あの話って本当なの」
「あの話って?」
「あなたが、紬に振られたって」
「あー、あれね。……本当じゃないよ。でも嘘でもないっていうか。色々あったんだよ、あの時は」
「あなたが紬と話さなくなったのも、そのせい?」
言葉に詰まる。何と告げるのがベストなのかが朝陽には分からない。
「それとも、私の」
「僕のせいだった。君のせいでも、噂のせいでもない。彼女には、白瀬さんには本当に悪いことをしたと思ってるよ」
「そう」
店内の喧騒とは対照的に、沈黙が訪れる。行き場のない右手で後頭部を軽く掻き毟る。
「話はそれだけ。わざわざありがとう」
それだけ言うと、彼女は足早に席へと戻っていく。
「まいったな」
理由作りに持ってきたコップは案の定空のままだ。本日何杯目か分からないドリンクに、朝陽は仕方がなくホットティーを選択した。
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