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11話 修了式



やや肌寒い体育館には全校生徒が集まっている。これだけの人数がいる空間が妙に寒いのは、換気のため開けられた扉のせいだろう。時々吹き込む風にいっそう肩を縮めた。


ホール全体で見ると、一年は扉側に配置されている。そのうえ暖房からやや遠くに座らされている朝陽の位置は、やはり寒さが勝った。おかげで眠くはならないな、などとくだらない思考が脳をよぎった。



「ねえ香坂くん」


ぼんやりと壇上に立つ校長のやや向こうを眺めていると、そんな声がかかった。


「このあとのクラス会参加できるって本当?」


隣に座る女子生徒の問に、朝陽は鷹揚に頷いた。


「うん。誘ってもらったし、特に用事もなかったから」


行きたくないという内心とは裏腹に、喜色を滲ませることを意識して答えた。


「え、やったあ!香坂くんってクラスのイベントとか参加するの珍しいよね」

「たしかに。予定が合うときはなるべく行こうとは思ってるんだけど、運が悪いのかな」


自虐的な笑みを浮かべ言う。ちょうどその頃、校長の長ったらしい話が終わった。ほっと息を吐いたのもつかの間に、今度は生徒指導の体育指導教諭が登壇した。周囲からも小さなため息が聞こえる。



「今日で今年は最後です。これから年末にかけて、もう今日がクリスマスイブですが、様々イベントがあると思います。精々羽目は外さないように。最近では異性間でトラブルが……」


ああ長くなるな、と察したのは朝陽だけではない。皆のため息は一段と深いものになった。


「ほんとうに最近トラブル多かったらしいよ」

「へえ」

「クリスマス近くだからかな、一気にカップルも増えたみたいだし」

「たしかに。最近校内でも見かけること増えたかも」

「でしょー?今日のクラス会だって、最初より人減ったもん。付き合い始めたからー、とかってさ。その分トラブルも多いみたいで」

「流石はクリスマスパワーだね」


声を潜めつつ行う会話は、少し青春みたいだななんて思う。それから、会話はゴシップにすぎないことに少し笑った。


結局生活指導の話は終始異性間トラブルだとか不純異性交友だとか。大して誰も聞いてなどいないが、本人は満足そうに壇上から降りていった。修了式というものはこれで終わった。三年から教室へと戻っていく姿を見送りながら、朝陽は少し背中を伸ばした。




「あー、ようやく冬休みだねえ」

「そうだな」

「羽目の外し過ぎには気をつけないとね」

「お前ちゃんと話聞いてたんだな」

「ふふ、ってことは朝陽も聞いてたんだ」

「暇だったからな。それくらいしかやること無かったんだよ」


真尋と並んで教室のストーブにあたっている。教室はまだ教師が不在ということもあり、ザワザワと騒がしい。全体の話題として、クラス会に参加をしない恋人持ちを揶揄うようなものが多い。その誰もがやめろよなどと反発しているが、嬉々とした表情が滲んでいる。



「あれ、お話に夢中でしたのでは?」

「……お前僕のこと見すぎじゃない?」

「そりゃ前の方に座ってるんだから、いやでも目に入るさ」

「クラス会とか参加するの珍しいねってさ。やっぱ僕ってそんな印象?」

「そりゃそうでしょ。入学してすぐにさ、放課後遊びに行こうみたいなやつあったじゃん」


真尋の言葉に、脳内に沈んだ記憶を掘り返していく。ほんのり浮かび上がったのは、たしか男女のそれぞれ何人かで遊びに行こうという誘いだった。それを断ったことは、たしかに頭の片隅の方にはあった。


「あー、あったあった」

「……君ってそのノリなのになんだかんだ上手くやれてること、俺とお綺麗な顔面に感謝した方がいいよ」

「……まあお前に感謝ってのはほんとにそうなんだよ」

「素直なんだか捻くれてるんだか。もしかしてこういうのがモテる秘訣なんかね」

「だとしたら真尋にも伝授してやるよ」

「ありがたいけど、ごめんね」

「さいですか」



呆れたように朝陽がため息混じりに応じた。


それから行き場のない視線のゆくえをクラス全体に向けた。数名の女子と視線が混ざり、それから彼女らはヒソヒソと話し出す。おそらくは悪口ではないはずだ、と思いつつどうにも居心地が悪い。その居心地の悪さに肩が凝るような気さえした。


それから少しして、廊下に硬い足音が響く。朝陽が席に座ると、すぐに教室の扉が開き担任が教壇へと立った。バインダーを突く音が響いて、生徒たちもぞろぞろと各自の席へと歩き出した。


担任の話を聞きながら、小さく開いた窓をふと見る。わずかに吹き込む冷たい風とともに笑い声が微かに響く。ぞろぞろと歩く団体もこれからどこかへ遊びに行くらしい。その楽しそうな笑顔に、朝陽は強く惹かれるものを感じた。


チャイムの音が鳴ると、「じゃあこれで先生の話は終わりだ。お前らほどほどに遊べよ」とだけ言うと、もう一度バインダーをトントンと叩く。号令に合わせて軽く礼をし、帰りのホームルームは終わりを告げた。









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