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4.イネス騎士団

 普段は静かな時が流れるポイナ村だが、今日は様子が違った。


 田舎には似つかわしくない、黒いフードをかぶった騎士団が突如現れ、村は一気に騒然となる。

 その姿はまるで処刑人のようで、村人たちは息を潜めて道の端に退いた。


 彼らの首元には、女神イネスの紋章が刺繍されている。実物を見たことがない村人でも、それが噂に名高いイネス騎士団であることはすぐに理解できた。


 女神イネスはかつてこの地で暴れる竜を封じ、平和をもたらしたと伝えられている。だが伝承は一枚岩ではなく、女神を信じる者と竜を敬う者に分かれてきた。

 そして、ポイナ村が属するスロア国の王は「女神イネスの使徒の末裔」とされ、この国では女神信仰以外を認めていない。


 イネス騎士団は国王直属の騎士団であり、竜教を邪教と断じ、その信徒を捕らえることを使命としていた。

 つまり彼らが来たということは、この村に「罪人」がいるということだ。



 騎士団は村の中心を抜け、真っすぐにミラの小屋へと向かっていく。

 その後ろで、サーシャが震えながらダニエルの腕にしがみついた。


「ダニエル……あたし、教会で聞いたの。まさか、ミラが……」

「……そんな、まさか」


 涙を浮かべて頷くサーシャ。


 もちろん、ミラが邪教徒だと教会に告げ口したのは、ほかならぬサーシャである。

 女神の祝福を受け、見習い巫女となった自分を疑う者などいないことを、サーシャはよくわかっていた。


 人付き合いが不器用なミラなら、騎士団に不審がられるのは必至。

 うまくやり過ごせても、村から爪弾きにされるだろう。


 これで、ミラはポイナ村から消える。

 絶望に顔を曇らせるダニエルをよそに、サーシャは気づかれないように俯いて、口の端を歪めた。


 ちょうどそこへ、村長でもあるダニエルの父が駆け寄った。


「親父、ミラが……」

「ミラちゃんが……まさか」


 サーシャはここぞとばかりに涙をこぼしながら袖をまくる。そこには新しい青あざがあった。

 念のために、昨晩作っておいた青あざだ。


「あたしも信じられないです……でも……きっと、これも……。

 あたしが女神様の祝福を受けたから……」

「ど、どういうことだい、サーシャちゃん?」


 不安げな村長に、サーシャはダニエルの影にそっと隠れる。

 ダニエルは感情を抑えきれず、彼女を抱き寄せた。


「また酷いことをされたのか……。許せない。

 親父、話があるんだ」


 険しい顔のダニエルに抱きしめられながら、サーシャは勝利の笑みを押し殺して震えていた。

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