第六話『Man In The Corner Shop』
勢いのまま第六話いきます。
「SOS? 冗談じゃない。そもそも意味がわかんねーって」
静まり返った店内。
さっきまで何かが映っていた形跡すらなく、モニターは完璧に真っ黒だった。
流れていたはずのBGMも、気づけば止まっている。
「なあ……今の、見間違いだった、とか言ってくれない?」
レグが小さな声で言う。
妙に広い“こんびに”で、その声だけがやけに響いた。
「スロットの映像に“手”が映ってた。それは、間違いないよな?」
俺が確認すると、ドランが静かにうなずく。
「間違いない。だが……どうやって? それに、誰が?」
「レグの仕込みだったり、しないよな?」
冗談まじりに言った俺に、レグは勢いよく首を振った。
その手には“時空対応アイス”が握られていたが、気づけばぐにゃりと溶けかけていた。
「……とりあえず、一度戻って確かめよう」
ドランの提案に、俺たちはうなずく。
誰かの悪戯か、偶然か、それとも──
静まり返った店内には、天井の空調の唸る音だけが耳に残る。
「……てかさ」
レグがぽつりと呟いた。
「これ、まだ会計してなくない?」
俺とドランは顔を見合わせる。
──そうだ。誰一人、レジを通っていない。
「レジ……あったよな? さっき?」
俺が不自然なほど静かな店内を見渡すと、レジカウンターはたしかにそこにあった。
棚、防犯ミラー、雑誌コーナー──構造は普通のコンビニそのものだ。
けれど。
「……誰か、いると思ってたんだが……」
ドランの声がやけに低く響く。
レジに人影はない。物音も、気配も、まるで最初から存在しなかったようだった。
「ちょ、待って。無人店舗ってこと? でもさ、これ、電子タグもないし、セルフレジもないよね?」
レグの声に、不安の色がにじむ。
さっきまでのテンションが嘘のようだった。
「……呼び鈴的なの、ないか?」
ドランがレジ奥を覗き込み、
俺もレジ脇のベルに手を伸ばした──その瞬間。
チリン……。
店の奥から、鈴の音がした。
……俺は押してない。
でも、確かに“鳴った”。
「……おい、今の……」
「聞こえたよな?」
全員が、息を飲む。
レジの奥。
カーテンで仕切られたバックヤードの向こうから、わずかな気配が漂ってくる。
そのカーテンが、ゆら……と揺れた。
──誰か、いる。
「……なあ、入店してから、店員、見たっけ?」
俺の問いに、誰も答えなかった。
そのときだった。
店の奥から、甲高い声が響く。
『お待たせしましたあーーーーーー』
続けざまに、かすれたような音が重なった。
「wwwwwwwwwwwwwwwww」
笑っている。
ふざけたような、けれどどこか機械的な──
そんな声が、俺たちを出迎えた。
まだまだ続きます