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あなたは明日異世界へと召喚されます

作者: むくまる

初投稿です。拙い文章ではありますがご清覧いただければ幸いです。

―あなたは明日異世界へと召喚されます―



淡々と繰り返す日常に突如としてピリオドが打たれた瞬間だった。


突然俺の部屋に現れた女神を名乗る存在が言うには、魔王軍の侵攻により大変な状況にある異世界があるらしく、そこに何のバイアスも持たず送り出せる存在で、かつ潜在的に異世界にて強力な能力を発現できる力が備わっている人間を選定した結果俺が選ばれたのだという。


いやそんな話には乗れない。

そう返したがすでに決定事項らしく俺に拒否権はないとのことだそうだ。女神連盟だか何だか知らないが急にもほどがある・・・とも言えないところが正直あった。


三億円、数字に直すと300,000,000円。両親が残して死んでいった多額の債務は1円の漏れもなく俺に引き継がれていた。


中卒で働きに出てもうすぐ3年、少ない給料から月8万円を返済に充ててさらに夜はバイトをして稼いでも俺の生きている間に完済は不可能な膨大ともいえる額。

当然給料を趣味に充てる余裕もなく日々最低限の栄養だけを摂取して四畳半のボロ賃貸に帰って寝るだけを繰り返す日々。

反射的に乗れないとは言ったものの、こんな生活から合法的に抜け出せるのであればそれは悪くはない提案だった。


出発は明日の明朝、先ほど女神が現れたのが出勤前の7時過ぎ、俺が卵かけご飯をかきこんでいた時なので約1日ほど猶予が与えられたことになる。

この猶予期間の間にこの世界への未練を断ち切り、そして一つだけ異世界へと持っていくものを決めておけという話だった。


それらの事を言うだけ言って女神は光と共に何もない空間へと消えていった。何でもその時間までは女神も地球にいるのでこのその辺を観光して回るらしい。とりあえず知り合いの女神に聞いた美味しいパンケーキが食べたりとグルメを満喫するそうだ、貧乏な俺へのあてつけか。


今日一日は強い雨の予報で、現場もすることがないだろうと俺は初めて職場へ欠勤の連絡を入れ、ボロボロの布団に横になって考えた。



俺が持っていきたいものって何だ?



正直何も思いつかなかった。

通常ならば思い出の詰まったプレゼントとか何か実用的な道具を持っていくのだろうがいかんせん俺には金も道具も貯えがないし毎日働くだけで他者との繋がりもない。


ピンポン、とやや壊れかけでノイズの混じった呼び鈴の音が鳴る。俺は布団から起き上がり軋む床を歩いて歪んで隙間のできた扉を開けた。


紺色のブレザーにひざ丈のスカート、肩まで伸びたしなやかな黒髪。ショルダーバックを片手に立っているのは俺の幼馴染の早坂琴音だ。


「おはよう、今日は珍しくまだ寝間着なんだ」


琴音の声には朝の憂鬱を吹き飛ばす効果があった。彼女は毎朝俺の家を訪ねてきてくれる、ただ別に挨拶をしに来てくれているわけじゃない。


「はいこれ今日のお弁当」


そう言って琴音は慣れた様子でピンクの薄い布で包まれた大きなお弁当箱を手渡してくれた。

彼女は毎朝弁当を作って俺に届けてくれる。それだけでなく夜もおかずを作って仕事終わりの俺の家まで届けてくれるのだ。

正直言ってこれはすごく助かった。食費だけでなく冷蔵庫などに充てる光熱費も節約できる、本当に彼女には感謝が絶えない。


「今日は仕事休んだんだ、えっと・・・頭痛くてさ」


「え、そうなの⁉大丈夫?体調には気を付けてね、そもそも頑張りすぎなんだから」


琴音はいつも俺の体調を気遣ってくれる.


「そうでもしないと返しきれないからな」


「それでも今日は仕事もバイトも休むんだよ、約束だからね」


俺に弁当箱を手渡すと琴音は足早に学校へと向かって駆けていった。

ただせっかく手作り弁当を貰ったとは言え今日が事実上俺の地球での最後の時間になる。

持っていくものも何も思いつかないがあの女神は最後にいいことを教えてくれた。

 

そう、散財だ。借金苦とはいえ少しは貯えもある、これまで休みもなく働いてきたばかりで俺はこの世の愉悦らしきものを一切経験していない。高い食べ物に好きな服、ゲームセンターやカラオケで遊ぶことだって俺には遠い世界の出来事のように思えた。


それらは皆がこぞってお金を浪費するものばかりだ、さぞ快楽が詰まっているに違いない。


これだけ我慢して働いてきたんだ最後くらい羽目を外しても構わないだろう、好きなところへ行き好きな事をしよう。

持っていきたいものもどこかで見つかるかもしれない。なかったとしてもそれでいい、この世界に未練などひとかけらもないのだからもっていかないというのも立派な選択肢だ。


決めるや否や俺は段ボールにしまってあった中学生の頃の私服を取り出して着替え、錆びた錠に鍵をして部屋を出た。

今夜はできるだけ高いホテルに泊まる。

だからもうここにも戻ってくることもないだろうと鍵をポストに入れ長年寄り添ったこのボロ家と別れてしまってもよかったのだが、念の為にとそれは避け財布とWi-Fiがなければ回線すら使用できない古のスマートフォンを手に俺は電車に飛び乗った。


電車など利用するのはいつ以来だろうか、移動に金をかけるなど言語道断と思い移動手段には全て足とこれまたひどく傷んだドブで拾った自転車を使っていた。


それからはとにかく思いつくことをやった、一食5000円もする店でよくわからないフレンチを食べゲームセンターでは景品が取れるまで遊び値札を見ずに服を買った。


夕方になり地元の観光地で当日でも泊まれるなるべく高いホテルを探して入った。

見たこともない装飾品に馬鹿みたいに広い部屋、全てを包み込んでくれるかのようなふかふかのベッドまであって俺のこれまでの生活と比較して、とても同じ世界の環境とはもはや思えなかった。


(明日あの女神とやらにあったら感謝しなくちゃな、あいつが現れなかったらきっとこんな贅沢知らないままだった。こんな環境で生活を続けられることをきっと幸せというんだろう)


などと感傷に浸っているとホテルのロビーで豪華な装飾品よりも目を引く金の長髪が視界に映った。

外国人の知り合いなどいないがどうにも見覚えがある、そっと様子を伺ってみるとなんと今朝の女神だった。


「あんた、何でこんなところにいるんだよ」


 あまりに驚いたのでつい声がでてしまった。


「あら、あなたは今朝の勇者様ではありませんか。いや勇者になるのはもう少し先の話ですが」


 ワンピースに革ジャンを纏ったラフな女神はなにが入っているのかわからない青いドリンクを口に運びがてらこちらを見た。

神々しく光を受けていた長髪も後ろでまとめられ完全にオフといった出で立ちだ。


「道行く人に尋ねたところここがこのあたりで一番サービスのいい宿だと伺ったものでやってきました。あなたも最後の休暇ですか?」


「最後とか言うな縁起でもない、向こうには宿の一つもないのか?」


「ありますがこれほど高いビル状のものはないですね、石造りのリゾートならありますがそんなものを目的にされても困りますし」


困りますなどと言っているが勝手に選定したのはそっちだろうと喉まで出かかったが今更蒸し返してもしょうがないのでその言葉はため息にして吐き出した。


「しかし例の報酬の件は本当なんだろうな?」


俺は対面の椅子に座り女神を見る。

そう、此度の話で俺はただただ拉致される訳じゃない、それ相応の対価を約束している。


「あなたがもしも魔王討伐の達成にいたったならば現世での借金返済及びこちらの世界にその身を変換する。もちろん覚えていますよ」


この地獄のような借金苦からの解放。

それがかなうのならば異世界だろうがどこだろうが行ってやる、これが俺が異世界への拉致行為を許容した契約だ。


「しかし物好きですよね、魔王討伐を成し遂げたのであればあちらで永劫に英雄として称えられながら生きていけるでしょうに。わざわざあなたの雄姿など知りもしないこちらに戻ってきて何がしたいのやらさっぱりです」


女神は理解できないというような、まったく奇異の眼差しを俺に向けている。

だがしかしその考えは理解できる。俺も何故この世界に未練があるのかいまいち理解しきれていない。


「故郷の土で死にたいんじゃないかやっぱり」


「やっぱりって何ですかどこか他人事ですね、この世界の人達は責任感がなくていけません。先ほどこの宿を教えてくれた人たちも語尾に知らんけど、とかつけて予防線張ってましたし。これどう思いますか勇者様」


女神さまは有耶無耶な言動がたいそう嫌いらしい。

まあ世界を救う勇者を導かなければならない身だ、中途半端な発言や信条は自然と鼻につくのかもしれない。


「知らん」


それらすべて踏まえたうえで心底どうでいい話だった。


「いやなんで知らないんですか、あなたの世界の話でしょうよ」


女神はやや体をこちらに乗り出して詰め寄るような体制で、眉を歪めて不満をあらわにしている。

外をほつき歩いていたやつがどんな奴かは知らんが適当に答えておくか。


「話を断定するって行為は責任を負うって事だ、このホテルがあんたのお眼鏡にかなわなかったとしてもそこに責任は感じたくない。だからあくまで与えた情報からあんたが自発的に選択したって過程を踏みたいのさ」


俺の話を聞くと女神は大きく肩を落とし椅子に座りなおした。


「なんと情けない。この宿に不備があったとしても誰も遡って責めたりしないというのに」


女神が深く腰を掛けた低反発のクッションはその落胆の重みを体現するかのようにへしゃげてしまっている。


「しかし同時に収穫もありました。あなたが借金の返済だなんて馬鹿みたいな報酬を望んだ理由」


「そうか、よかったな」


得意げそうに顔を傾ける仕草が気に入らなかったのでドヤ顔推理劇が始まる前に俺はこの場を去ることにした。


「いやっちょっと待ってくださいよ!聞いてく流れ、聞いてく流れですよこれ!謎は解いたことを共有して初めて気持ちよくなれるんですからそんな畜生なタイミングでどっか行こうとしないでください!!!」


「だったら後でメモでもくれればいいよ。合ってたらメモを縦に破る、間違ってたら横に破るから」


「それでどう喜べってんですか!!!」


結局説得に負けた俺はしぶしぶ再度席に着く。


「つまるところあなたは無責任な行動が嫌いなんですよ。お金が欲しいなら報酬を10億でも20億にでもしてその中から借金の返済に充てればよかった、それなのにまず考えることが借金返済とはね。あなたは己を苦しめる借金にしかし納得し、それを返すことは責任ある行為だと感じているわけですね。まさに勇者にふさわしい愚直な思考です」


どうにも腹立たしい物言いだが女神の考えはおおよそ的中していた。

借金は父が事業に失敗してこさえた借金だが不正なものは何一つない。ならばその息子である俺が返さねばならないのは当然の義務だ。

そう思って毎日働いてきた。


「で?」


「で?とは?」


女神はポカンと魚のように口を開け呆けている。


「それなら異世界から借金だけ返せばいいだろ、俺がこっちに帰ってきたいって言ったことに関しては謎のままだ」


「知りませんよそんなの、自分で考えてください」


なんて無責任な奴だろうか。


「じゃあ考えないといけないから自室に戻るよ」


俺は今度こそ席を立って自室に戻ろうとした。


「あ、そうだ考えると言えば」


まだ何かあるのか、と振り返る。


「異世界に一つ持っていくものは考え付きましたか?」



その後俺はホテルのサービスの一環で申し込める人生初の高級マッサージを堪能し、俺の部屋よりはるかに広い風呂で疲れを流した後、レストランで夕食を堪能していた。

どのサービスもスタッフの気遣いが行き届いていて料理に関しても全く隙が無い美味しさで大満足だった。


(異世界に一つだけ持っていくものか・・)


やることを全て済ませこれまた広いベッドで横になって考えるが一向にその答えは見つからなかった。

俺には異世界に持っていきたいものなど何一つない。

しかしではなぜそれほど思い入れもない世界に帰ってこようなどと思ったのか。

何度も思案したが思考は巡るばかりで一向にとまり木にはたどり着けないままでいた。


(もう寝よう)


そう思って瞼を閉じるが全くと言っていいほど眠気はやってこない。

羽毛をふんだんに使った寝具も生活音を通さない分厚い壁も十分に俺の就寝を後押ししてくれている。

しかしざわざわと心の中を蠢く何かが逃がすまいと言わんばかりに俺を覚醒させ続ける。

この考えには覚えがある。


―罪悪感―


俺の嫌いな感情だ。

逃げても逃げても俺の内側にぴったりと張り付いてついてくる、これに耐える術を俺は知らない。


正直心当たりはある、今も部屋の中にある琴音がせっかく作ってくれたお弁当。

自分が情けない、最後くらいは豪遊しても構わないだろうと言い訳して彼女の好意を無下にしたのだ。

ふっーと息を吐くと素早く寝間着を着替え、俺は駆け足でホテルを出た。


電車はすでに終電を過ぎてしまっていたので家に向かいがてらタクシーを探したがこういう時に限って見当たらない。田舎の出身を恨んだが、そうも言っていられずただひたすらに走った。なにしろ明朝には俺はこの世界から切り離されてしまう。


峠をいくつかと街を二つ超えてようやく自宅のアパートにたどり着く、辺りは薄っすらと朝暘が差し込むほどに明るさを得てきており、これならば始発で来ればよかったかとやや後悔した。弾んだ息を整えるように入り口までの階段を上ると扉の前に布に包まれた箱とメッセージが添えられていた。


―体に気を付けて、無理はしないでね―


クローバーのデザインをあしらったかわいらしいメモ用紙には優しい琴音らしい丸っこい字でそう書かれている。

包を開けると野菜や鶏肉中心の健康的な食品で作られたお惣菜が数品目、いつもの弁当箱に隙間なく詰められていた。


添えてある箸で料理を一つつまんで食べる。決して派手さはない素朴な味付け、しかしそこには単純なうま味以外の形容できない何かが詰まっているような気がする。

その瞬間俺は理解してしまったこれこそが俺をこの世界に繋ぎとめる未練の正体なのだと。


「最悪だ、知らなければよかった。こんな感情を自覚したらこの世界から消えるのが億劫になる・・・」


琴音とはいわゆる幼馴染で家が近所だったこともあり幼いころはいつも一緒に遊んでいた。

小中と同じ地区の学校へと通い今では地元で有数の進学校に通っている。

巨額の借金を抱えて中卒で働き始めてから俺と関わる人間はぱったりといなくなってしまったが彼女だけは唯一俺の事を気にかけ色々と世話を焼いてくれている。


気が付いてしまった、俺がこの世界に戻りたいと思った理由。

俺は琴音との繋がりを失いたくなかったんだ。


「え、何で外で食べてるの・・・?」


驚いて声の方を振り返るとその琴音が立っていた。手にはコンビニのビニール袋をさげ怪訝そうにこちらを覗きこんでいる。


「なんか汗だくだよ、そんなに熱があるの?栄養ドリンク買ってきたから今日もしっかり休みなよ」


不在の俺が寝込んでいると思ったのか手渡されたビニール袋の中には栄養ドリンクやゼリーなど風邪でも栄養を取れそうな商品が色々と詰め込まれていた。


「いや体調は良いんだ、昨日はずる休みして遊んでたんだよ」


「えぇ⁉ずる休み?そんなことあるんだ今日は雪でも降ったりするのかな」


俺が仕事をサボったという事に目を点にして驚いているが、これからもっと信じられないような事実を告げなければならない。


「雪が降るだけならまだましだ、俺はこれから仕事は辞めるしこの世界からもいなくなるんだ。何でも異世界に召喚されて世界を救うとかなんとかって」


琴音はとうとうその場に固まり今のすっとんきょうな言葉をなんと受け取ればいいか思案している様子だ。


「ええとそれって海外で働くって事?」


異世界は無事海外に自動翻訳されたらしい、真面目で実直な琴音らしい答えだと思う。


「まあそんな感じかな、なんにせよしばらく戻ってこれないと思う」


しばらく、というか最早帰ってこれる保証すらない。


「ダメだよ、そんな場所に行かないで」


琴音は俺が借金のかたに売られ強制労働でもさせられると思っているのだろうか、不安の心情が表情にはっきりと表れていた。まあ事実大差ないが。


「拒否権はない。だそうだ」


澄んだ朝暘に照らされるのは別れの空気。こみ上げる感情をこらえ俯く琴音の瞳はうっすら涙が見て取れる。

悪いのは全部あの阿保女神だが泣かせてしまった責任は取らねばならないだろう。

せめて全て包み隠さず伝えて消えよう。


「好きだったよ琴音、今までありがとう」


ずっと理解しないようにしていた感情は、思っていたよりも饒舌に言葉となって口から出た。


借金苦で低学歴、全く甲斐性がない俺がこんな感情を抱くのは罪だと思っていた。きっと相手にすらされない、同情を愛情と勘違いして距離感を図り損ね、唯一の生きる希望を失うことが怖かった。

ただこの崖っぷちに来て俺の腹はようやく決まったのだ。


「だったとか言わないでよ・・・」


「いやダメだ、ここで過去にする。そしてお互い新しい人生へと進むんだ」


それが最善で論理的な結論。戻ってこれる可能性が少ない以上、その可能性は切り捨てて前に進むのが最も賢いやり方だ。


「勝手なこと言わないで!私はそんなに簡単に割り切れない、多分これからもずっとあなたが好き」


湧きだす大粒の涙は頬を伝い、それでも収まりきらない感情が肩を震わせている。

この人生で面と向かって誰かに好きだと言われる日が来るとは考えもしなかった。

今その言葉に応えられないのは辛いがそれでも何かに許されたようなそんな安堵感が身を包む。


「私はそんなにすぐには切り替えられない、だから28になるまでまで待つ。28になるまでに帰ってこなかったら私は新しい恋をする。そしていつか結婚して家庭をもって幸せに生きる。」


「いい目標だと思うよ」


女性にとってのその期間は花だ。それをまるっきり俺を待つことに使わなくったっていい。

そう思ったがまあこれで琴音は一度決めたら聞かないところがある。その気持ちを今はありがたく受け取っておきたい。


「それでもいつか、何歳になったとしても無事に帰ってこれたなら・・・お弁当くらいは作ってあげる。だから絶対に生きて帰ってきて」


「約束する」


根拠はない、しかしここではぐらかうような奴が世界をすくえるわけなどないと思った。

存外俺は幸せ者だったのだ、どれだけお金があっても手に入らないモノを得ていたのだから。

必ずここに帰って来ようと俺は琴音の想いに誓った。



「おや、随分精悍な顔つきになりましたね。覚悟がお決まりなのは大変喜ばしいことです」


琴音が去った後タイミングを見計らった様にまたあの女神は何もない空間から光と共に姿を現した。

もはや疑いようもない、これは現実なのだ。


「それで、持っていくものは決まったんですか?」


「決まったよ、思い出をもっていく。今朝の記憶を一生ものとして俺の脳裏に刻み付けてほしい」


あの涙を眼差しを、誓った言葉を何があろうと忘れたくはない。物よりも確かな記憶をもって、俺は異世界を戦い抜いて見せる。


「結構、それでは歓迎します。ともに世界を執る勇者よ」


激しい閃光に目を伏せると同時、床に立っている感覚が消失し俺は現実の世界から影も形もなく消え去った。

これからは想像もできないような過酷な日々が待っているのだろう。ただ恐ろしくはない、俺には是が非でも戻らなければならない場所を知ったから。





果たして彼はその後こちらの世界に帰ってくることができたのか、できたとしてそれは何年先になったのか・・・

その先を想像しながら評価をポチっとしていただけると嬉しいです。

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