イヅナ使い
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飯綱御影 @izuna_mkg_official
本日は飯綱御影バースデーイベントに
お越しくださりありがとうございました!
23歳になりました(^^)
今年も皆さんにたくさん
お祝いしていただいて幸せです!
明日はオフなのでお手紙読むぞ〜
昼の部 集合写真ヽ(´▽`)/
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#飯綱御影 #飯綱御影バースデーイベント
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拝啓__天国のおばあちゃん。
なぜ芸能事務所を作ったのですか?
この問いかけはもう何度目になるでしょうか。
おばあちゃんが亡くなってから6年。
あなたの残したこの場所で、従兄弟の陽一兄ちゃんはじめ、私たちスタッフは一生懸命働いています。
一時はどうなることかと思ったけど、ミカゲの人気がとどまるところを知らず、なんとかやっていけています……。
もう5年になるのに、私はいまだミカゲの手綱を握れていません。おばあちゃんの孫なのに…不甲斐ありません。
「おい」
「もう、邪魔しないで!」
今日の日中はミカゲのバースデーイベントで、終日運営スタッフ(主に物販販売)として同席していた。正直立ち仕事はキツかったが、この日のためにここ一ヶ月近く慌ただしく働いていた従兄弟:現ミカゲのマネージャーである陽一を思うと大したことはない。
終わってから事務所に戻って2人でプレゼントの仕分けをして、先ほど帰ってきて手渡しをしたばかりだ。ようやく自分の時間を過ごしていたというのに。
相変わらず私にソファを譲ってくれないミカゲは、持て余した長い腕でちょいちょいと後ろ髪をいじられている。
「それ仕事じゃないだろ」
「私の日課!デイリータスクなんです!!」
「せめてマンスリーにしろ。キエもうざがってるぜ」
ミカゲに鼻で笑われたひよりは口元が引きつる。
「まっ!孫からの手紙をうざかるおばあちゃんなんていないからな!!?てか、あんたも手紙ちゃんと読みなさい!読んで広げて並べて写真を撮ってアップしろ!」
「それは時間作ってやるから、今日のご褒美くれるか?」
空気が少し変わった。真顔でじぃっと見つめられて静かなトーンでそう言われた。
顔が良い。否、顔に少し疲れが見える。
「そうだね、いいよ。準備するからちょっと待ってて」
ミカゲもそうだが、ひより自身も仕事で忙しくなり、労ることに時間を取れていなかった。これ以上はルールに反する。
一日中外にいた服を脱いで、桐箱からとり出した袴に身を包んだ。祖母の仏壇から瓶を取り出した。
***
「ひより」
準備を終えてリビングに戻ると呆然とした様子でミカゲが立っていた。
程よく引き締まった長身の体躯。大衆受けの大変良い美しい顔立ちと、それが引き立つ色白の肌。役柄や仕事によって変わるが、今はツーブロックの黒髪短髪。印象的な目力を持つ瞳。
その美しさに、ひよりは息を飲む。
これは羨望や称賛ではない。
計り知れない、畏敬の念。
「来れ、我が綱__『御影』」
目の前が真っ白い光に包まれる。あまりの眩しさに、ひよりはたまらず目を瞑った。
シャン、と鈴の音が聞こえた。
その音を合図に目を開けると、目の前に真白なイタチのような尻尾の長い動物が鎮座していた。
「あぁ…まずいまずい。ほら、御影。こっちにおいで」
ひよりが手に持つ鈴を手の中で転がすと、白くて細長い生物がてててとフローリングに爪を鳴らして近づいてきた。すかさず足元に並々に注がれた升酒を置くと、それは当たり前のように頭ごと潜るように飲み干していく。
あっという間に飲み干すと、ピュイとひと鳴きして跳んだ。
「うわ!ちょ、御影!頭はやめて…ぐっ!!」
頭に乗ったそれはぐんと力を込めて、ひよりの頭からさらに跳ぶ。そして__
「おら、ひより!一合なんてふざけてんのか!一升瓶持ってこい!!」
「ひゃい!ただいま!!」
ひよりが顔を上げると、そこには先ほどまで見慣れていた人気俳優が、真白い三角の獣の耳と同色の尻尾を9本こさえて仁王立ちしていた。
玖綱ひより。
飯綱使いの家系に生まれ、先代からイヅナを継承した歴とした飯綱使いである。
【イヅナツカイ】
それは古来からヒトならざるモノと契約を結び、その力を借りた生業で繁栄をもたらした術師である。
イヅナとは霊狐のこと。
狐は神格を高めるために下界で修行を積むという。
その期間にあたる霊狐と使役契約を結んだ家を『クダ持ち』と呼んだ。
彼らはイヅナの力を借りて、一族に繁栄をもたらしてきたのだ。
イヅナは一族に繁栄をもたらす代わりに、契約者を血で縛る。一度信仰を始めたら最後。盟約が守られる限りその繁栄は続くが、反故にされればその一族を滅ぼすのだ。
6年前、先代 飯綱使い__玖綱キエが他界した。
生前生業にしていたのは小さな個人の芸能事務所の運営。所属歌手はすでに引退しており、その人物の著作物管理が主な仕事であったそう。
本家筋であるひよりはキエと同居時にずいぶん可愛がってもらっていたものだ。仕事に関してもほぼ書類整理や使用許可承諾で、手伝いと称して職場を遊び場のようにしていた。
飯綱使い、関係なくない?
当時ひよりはそう思っていた。
しかしキエの他界をきっかけに、過去に聞いた話が自分の身に降りかかってくるなんて、想像もしていなかったのだ。
キエの四十九日を終えると、それは前触れなく訪れた。
目が覚めると、身体中が傷だらけだった。
家族に話を聞くと、夜中に大声をあげたり、木に登ったり、屋根に飛び乗って駆け回ったりと、奇行のかぎりを尽くしたというらしい。
俗に言う『狐憑き』だ。
玖綱家ではこういう現象が何世代かに一度起こるらしい。しかも今回はとびきり例外があった。
当時18歳だったひよりだけではなく、法事として玖綱家にやって来た従兄弟にあたる陽一も同じ現象が起きた。
その状態は1週間続き、7日目に二人はこう口にしたそうだ。
『綱を以て血の盟約に則りこれに従う。この者に綱を、我らに贄を』
こうして、ひよりと陽一はキエからイヅナを継承し『クダ持ち』となったのだ。
すでにわかることであるが、飯綱御影はひよりのイヅナであるミカゲが、ヒトの形を取った存在である。
「どうしてお父さんじゃなくて私だったの?」と聞いたことがある。ひよりは幼少期から霊感の自覚はなかったし、祖母曰くイヅナが人間を選ぶのだ。
「お前の気が、キエに一番近い」
とどのつまり、ミカゲの中でキエが忘れられない存在ということである。
ちなみに飯綱御影のおばあちゃん子設定は、ここから作り出した。
キエが生前担当していた歌手とはミカゲの別の姿であることも継承後に発覚した。イヅナの力を借りるために、芸能事務所という舞台を整えたに過ぎない。
本人は引退もしているので「お前の長い一生の一過性なのかよ!」とひよりが文句を言えば、ミカゲは身体と尻尾を丸めて拗ねたようにこう言ったのだ。
「キエが……『御影は歌が上手だね』って言うから……」
うん???
耳を下げて頬を赤めながら宣った姿に、ひよりは文字通り目ん玉をひん剥いた。
このイヅナ、先代のキエにゾッコン(死語)で、彼女が死んでもなお未練タラタラなのである。