最終話 愛を繋いでいく
――それから長い年月が経ち――。
「うえぇぇ~いたいよぉ~……」
「どうした? 転んでしまったのか?」
翼を生やした女騎士、シルヴィアが泣いている少女を抱き起し、優しく声をかけた。
「うん……うぇ~ん!」
優しくされたことで、さらに大声を上げる少女。
「大丈夫だぞ! さ、アンジュの所に行こうか」
シルヴィアに連れられ、孤児院の長であるアンジュの元へと訪れる少女。
「せんせぇ~! いたいよぉ~!」
アンジュを見た途端、痛いはずの足で駆けだし、飛びつく。
「どうしたの? 足を怪我してるみたいだけど……」
「うぅぅ……はしってたらね、ころんじゃったの……」
どうやら転んだときに手を付けなかったのか、膝だけでなく鼻の先も擦りむいていた。
「そっかそっか、痛かったね。もう大丈夫だよ」
優しく頭を撫でながら、『回復』の魔法を少女にかけるアンジュ。
「……ふわぁ……いたくない!」
「ふふ、良かった。さぁ、また遊んでおいで!」
「うん! あ、せんせ、あのね……」
そう言って少女は、握られてくしゃくしゃになった花を差し出した。
「あ……くしゃくしゃだ……」
「どうしたの? そのお花」
「うん……せんせぇ、きょうはたいせつなひととおわかれなんでしょ? だから、おはな……」
どうやら、アンジュが大切な人とお別れすることを聞いた少女が花を摘んでアンジュに渡したかったようだ。
そして転んだ拍子にその花を握ってしまったらしい。
「ありがとう! ちゃんと渡すね!」
「うん……でも……くしゃくしゃ……」
「大丈夫! その人はとっても優しい人でね……きっと、喜んでくれるよ……」
アンジュが思い浮かべる。
とても、とても大切な女性を。
◆
ノートン領にある立派な教会。
そこにある大きな鐘の音が辺りに木霊する。
それは、魔法界に革命を起こした偉大なる聖女との別れを告げる鐘だった。
聖女であり、世界でも有数の回復魔法の『開放者』。
彼女は若い頃から魔法の研究を重ね続け、魔法陣というものを創り出した。
少ない魔力を通すことで、様々な魔法を疑似的に使える様にしたり、効果を増幅したりと、人々の生活や安全に大きな革命をもたらしたのだった。
歴史に大きく名を刻んだ聖女との別れを惜しみ、多くの人が彼女の葬儀に訪れた。
「お父さん! 久しぶり!」
「ルビアか……久しいな」
ビビアンとハナブサの息子ヴェンと孫のルビアもその中にいた。
「『魔法陣の祖』、ロクサーヌおばあちゃんのお別れのために、こんなにいっぱい人が来てくれたんだね」
「うむ……魔法陣はそれだけ多くの人を救ったからな。ロクサーヌ様を慕う人は多かった」
ロクサーヌの最期まで、彼女の護衛の1人として活動していたヴェンも、慕う人の1人。
初恋の相手でもあったロクサーヌ。想いは実らなかったが、その想いは尊敬の念へと繋がっていた。
「しかしもったいないよね! ずっと独身で子どももいないんでしょ?」
「……あぁ」
残念ながらロクサーヌは、報われなかったようだ。
若いとは言えなくなった頃、彼女は魔法の研究に没頭し始めた。
かつての旅の仲間であるビビアンの手を借り、ひたすらに。
その研究の成果の1つが魔法陣だった。
「でも……晩年は結構ヤバかったって噂も聞いたよ? いきなりアンジュちゃんとシルヴィアさんに襲い掛かったって……」
「……」
無くなる数日前にふらっとアンジュたちの元を訪れたロクサーヌ。
何を思ったか、彼女はいきなり手にしたナイフで2人を斬りつけたのだった。
シルヴィアによって事なきを得たが、それでも突然の凶行。
周囲には伏せられたが、いつの間にか噂となってしまっていた。
「……実はな、その事件の数日前に聖女様は言ったんだ。『陣は完成、後は血だけだ』と」
「え、何それ。怖いんですけど」
「慈悲深い聖女様が理由もなくあの2人を襲う訳がない。きっと、とても重要な何かがあったんだろう」
「……そうかなぁ……?」
ルビアの頭に疑問符が浮かぶ。
しかしロクサーヌ亡き今、真実はもう聞けない。
「まっ! そんなことより今日は笑って見送ろうよ!」
「……そうだな」
ならばこそ、今日は自分たちの楽しい思い出を語って送り出そう。
そう考えなおし、やがて2人も大勢の参列者の中に消えていった。
◆
「ロクサーヌ……」
「……ローちゃん」
穏やかに笑みを湛える彼女の顔を撫でる。
その横に、少女に貰ったくしゃくしゃの花を添えて。きっと彼女なら喜んでくれるだろうと思いながら。
「ははっ! 何だかしてやったりって顔で笑ってるぞ! よく見た顔だ!」
「そう、だね……」
苦楽をともにした、かけがえのない存在に別れを告げる。
何度か経験してきたことだが、やはり慣れることはない。
「ビビアンとハナブサの時もそうだったが……やはり、きついな」
「……うん」
無理して笑うが、まるで心にぽっかり穴が開いたよう。
とても大切な存在がいなくなるという出来事に、心はまだ受け入れられていない。
まるで天使は特別だとでも言うように、アンジュは核が生じてから、シルヴィアも彼と結ばれてから、体の変化が止まってしまった。
これからも多くの人と死別していくことを思うと、少しだけうんざりした気持ちになるシルヴィア。
そして今日も、となりにいるアンジュと同じくらい大切な存在だったロクサーヌを見送らなければならないのだ。
「……今日は久しぶりに飲まないか? 朝まで……あの旅を思い出しながら」
「……そうだね」
今でも忘れられないかつての旅、その仲間。
彼女らを想い、今日は飲み明かすのだ。
「今まで……今までありがとう! 絶対ローちゃんのこと忘れないから!」
明日からまた、想いを繋げるために。
読んで下さりありがとうございます(/・ω・)/
ここまでご覧くださり、本当にありがとうございました!
拙い文章で申し訳なかったですが……またお会いできるのを心待ちにしております。
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