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第60話 ハナブサとビビアン

「ハァッ!」

「ぐへっ!」


 ノートン領に戻ってから数週間。

 ここしばらく、ハナブサはノートン領騎士団1番隊隊長のキーファと模擬戦を行っていた。


「いってって……やっぱつえぇなぁ……」

「キーファ殿も中々」


 ハナブサとしても、魔力を使わない戦いに慣れなければいけない。

 失った右手を魔力で顕現させる『無刀』は魔力の消耗が激しい。


 いざとなったときに左手でも刀を扱えるようにならなければいけなかった。


「最初は勝ててたんだけどなぁ~、やっぱ地力が違うってことか」


 そして段々とその戦い方にも慣れ、ここ最近はハナブサが勝つことが多い。


「……キーファ殿のおかげで、ようやく形になりました」

「ま、そう言って貰えるなら……」

「まるで幼い頃のような……戦い方を導かれながら、という感覚。キーファ殿には感謝しております」

「……ふっ」


 だらしがないようで常に人のことを気にかけている。

 ファルシスの信も厚く、1番隊隊長を任されている男。


「言っておくけど、俺は隊長たちの中でも最弱……本来はデスクワーク派だからな!」

「……ご謙遜を」


 事実ではあろうが……日々鍛錬を欠かさずに来たであろうことはハナブサにもわかる。

 そんな彼に敬意を表するのは当然――。


「そうだぞ! キーファは弱いからなっ!」

「……」


 どうしてこの女は……そう思いながら声の方を見やる。


「私も最近腕がなまっているからな! ここはひとつ、私と勝負しろ!」

「……」


 腕がなまっている理由、それは――。


「1日中アンジュと一緒に遊んでいたらそうなる」

「? アンジュの愛が私を強くする! なればこそ、一緒にいるのだ!」

「それは違うだろ……」


 キーファがぼやくが、全く耳に入っていない。

 仕方がない、ここは一肌脱ぐか――ハナブサが気合を入れる。


「お前と戦うなら……こちらも全力でいかねばなるまい」

「望むところ! いざ!」


 両者から尋常ではない量の魔力が迸る。

 ハナブサの右手が顕現し、シルヴィアも白銀の鎧を魔力で輝かせる。


「――参るっ!」

「行くぞっ!」


 そして――勝負は一瞬だった。


「なっ!?」

「……さぼり過ぎだ、シルヴィア」


 足を払い、倒れるシルヴィアの首筋に剣を宛がう。


「な、なぜだ……アンジュの愛が足りないとでも……? いや、アンジュがもう私を愛していない……?」

「……それは違う」


 しかし……何と言えば良いのだろうか。

 ハナブサは口下手だった。


「やれやれ、シルヴィア嬢よ。愛そのものがお前さんを強くするんじゃないだろうよ」

「……?」

「愛してる者を守るためにこそ、強くならなきゃいけない。愛する者を思えばこそ、限界を超えて強くならなければいけない。そうじゃないか?」


 どうしてこんなことを言わなければならないのか、とかつての部下を残念な顔で見るキーファ。


「私は……そうだ! アンジュを思えばこそ強く在らねばならない! 何故そんな当たり前のことを忘れていたのだ!」


 本当にね、そう思わずにはいられないキーファとハナブサだった。


「まぁ、厳しく辛い鍛錬の果てに……家に帰ると天使(むすめ)が迎えてくれる。それを思えば強くなれるってもんさ」

「――! ぬぉぉぉぉーっ! こうしてはおれん! ハナブサよ! 戦うぞぉっ!」


 アンジュのために強くなれる。家に帰ったらアンジュが受け入れてくれる。

 何と……何と心躍ることか!


「……ふっ、いいだろう!」




 ◇



 

 ――そしてさらに数週間後。


「おじさん……」

「本当に行くのか?」

「ビビアンさぁ~ん、ハナブサさぁ~ん……」


 そこには、旅支度を終えたハナブサとビビアンがいた。


「あぁ」


 少ない言葉。

 命を賭けあった戦友に、余計な言葉はいらない。ハナブサが背を向けようとするも――。


「ちょっと待ちなさいよ! そんなんじゃ伝わらないでしょ!」

「……む」


 あまりにも素っ気ない別れにビビアンが待ったをかける。


「これからもね、魔物を倒す旅に出たいんだって」

「……そうか」


 魔物への憎しみはそうそう消え去るものではない。

 かつて妻と息子、他にも大切な人たちを殺されたのだから。


「違うわよ? これからは……魔物に苦しめられている人たちを助けるために、魔物を倒す旅に行くの!」

「……そうか!」


 言葉遊びではない。復讐の旅でもない。

 理由が、目的が違う。ハナブサは――。


「アンジュ、お前のおかげで俺は救われた。だから……」

「おじさぁん……!」


 足にしがみつくアンジュ。

 それを、ハナブサは抱え上げ、ぎゅっと抱きしめる。


「お前のように、魔物に苦しめられる人がいなくなるように……旅に出るよ」

「うん……うん!」


 短い間ではあったが、かけがえのないものをくれた仲間。

 これから先ずっと、その思いを胸に抱き、生きよう。


「さ、あまりいると決心も鈍っちゃうから……」

「ビビアンざぁ~~~ん!!!」


 ロクサーヌが大泣きしながらビビアンに抱き着く。


「ちょっと! 本当に手のかかる……妹ね」

「うぅぅ……びぇぇぇぇぇ~ん!」


 鼻水をふき取ってやりながら、言葉を紡ぐビビアン。


「またいつか……戻って来るからさ! その時には……ちゃんと勝ち取るのよ!」

「はい……はいっ! うぇぇぇ~……」


 かつて愛に振り回され、愛を斬り捨て……そして愛を手に入れたビビアン。

 彼女に負けないように、ロクサーヌもそう決意する。




「それじゃ……行くわね! 元気に過ごすのよ!」

「お前たちこそ! いつでも戻ってこい!」

「お、おぎをづげで……うぅぅ……」

「また、また会えるよね……ビビちゃ……おじさ……」


 ビビアンとハナブサに別れを告げる。


「あぁ、必ず戻って来る。その時まで……さらば!」


 去っていく2人。

 その背中をいつまでも、いつまでも――。


「……うぅ……うわぁぁぁーん! うわぁぁぁぁ~ん!」

「よしよし、よく最後まで頑張ったな」


 大切な仲間の旅の無事を祈り、いつまでも見送るのだった。



読んで下さりありがとうございます(/・ω・)/


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