第59話 シルヴィアの弟
「姉上っ! 俺と勝負しろ!」
シルヴィアたちがノートンに戻って来て数日後。
遠征から戻って来たばかりのシルヴィアの弟であるヴェルサス、彼が突然勝負を仕掛けてきた。
「何だいきなり。そんなことよりも、久しいな」
「うるさい! いいから勝負だ!」
ヴェルサス=ノートン。
シルヴィアの弟で、次期騎士団長。
そんな彼がなぜシルヴィアに勝負を仕掛けるかというと、勝負に負けて騎士団長を譲る為であった。
できのいい姉がいたばかりに……自分は好き勝手なことができていた。
鍛錬もそこそこ、好きな女の子と遊んだりして楽しむ毎日。
見聞を広げるため、と言って突然旅行に出ることも多々あった。
もちろん、彼女を連れて。
それなのに……それなのに!
少し長めの旅行から家に帰ったら『お前が次の騎士団長だ』『今までのような勝手なことは許されない』だと宣う父親。
許せなかった。
勝手に出て行った姉も、勝手なことを抜かす父親も。
「勝負だ! 俺が勝ったら……騎士団長の座を譲る!」
「いや……それはダメじゃないか?」
シルヴィアとしても、一度投げた椅子に座る気は全くなかった。
そして騎士団長の椅子はそんなに軽くはない。
シルヴィアとて、名義上ではあるが大切な家族を捨てて選んだ道なのだから。
「まぁ……お前の腑抜けた根性を叩き直してやるのは悪くないからな! その勝負乗ってやろう!」
「――っ!」
これだ。脳まで筋肉の姉はいつもこれだ。
何かあったらすぐ『根性』!
幼い頃何度叩きのめされたことか。
「っざけんなっ! いつまでもあの頃の俺だと思うなよ!」
「ははっ! いい気概じゃないか!」
剣を横に構え、憎き姉に突撃する。
それを、見覚えのある大剣で迎え撃つシルヴィア。
「(ちょっと待って!? あれ親父の剣じゃないかっ! あれ、これ……死……?)」
「はぁっ!」
ヴェルサスの横薙ぎ、それをヴェルサス本人ごと弾き飛ばすシルヴィア。
「(あ……死んだ……?)」
宙を舞うヴェルサス。
不思議と痛みはなかった。
死ぬ前は痛みを感じないと聞いたこともある。
そして目の前には6枚の翼が生えた天使も見える。
「(あぁ……お迎えの天使ちゃんは女の子がよかったなぁ……)」
そしてそのまま壁に激突するヴェルサス。
気を失う――ことはなかった。
「あれ……? 生きてる?」
「殺す訳ないだろう! しかし、やはりアンジュの『支援魔法』はすごいなぁ!」
「えへへ~!」
見ると、今まで見たこともないようなだらしのない顔で天使を撫でている姉。
ふざけるな! お前の方が腑抜けているじゃないか!
「姉上ぇっ! って、あれ……まさか、これって……?」
「言っただろう! 叩き直してやると!」
物理的に、強制的に。
いつまで? 姉が満足するまで。
「ごめん! さっき言ったこと嘘だから! 俺騎士団長目指して頑張るからぁっ!」
「問答無用!」
久しぶりの姉弟の交流は、忘れていた上下関係を思い出すのに十分だった。
◆
「いや本当に酷くない!?」
「はっはっは! すまん! つい昔を思い出してな!」
あの後、何度も何度も叩き直されたヴェルサス。
彼も本当に騎士団長の座を嫌がっている訳ではなかったが、何度挑んでも軽く返される状況に意地になってしまっていた。
「お前は正直強くないけど、何度も向かってくるところ……昔と変わらないな!」
「……」
そんなこと知っている。
いつだって何度だってこの姉には勝てなかったのだから。
悔しくて何度も挑んで、毎回地に這いつくばって……。
「変わらないようで嬉しいよ。間違いなく、お前の武器だ!」
「……」
いつも何だかんだ認めてくれる姉。
憎たらしいことには変わりないが……嫌いにはなれなかった。
「……ふん。そう言えば言ってなかったね……おかえり」
「あぁ、ただいま! お前もおかえり!」
「そうだ、アンジュ君も始めまして――」
彼女たちなりの挨拶を終え、アンジュにも改めて挨拶をしようとしたヴェルサスだったが――。
「きゃ~ん! やっぱり可愛いわぁ~!」
「羽が増えてる! ふわっふわよぉ~!」
「貴様らっ! アンジュに気安く触るなぁっ!」
女性騎士団員に揉みくちゃにされているアンジュ。
そしてその女性たちを必死の形相で追い払う姉。
「……え、大丈夫なの?」
その様子に不安を覚えるヴェルサス。
「大丈夫ではありません。アンジュ様を汚そうとする者共は滅殺すべきです」
さらに、唐突に物騒なことを言いだす少女、ロクサーヌまでが現れ――。
「(騎士団長、ちゃんとやろ……姉上たちにはどっか行ってて貰お)」
そんなことを心に決めたのだった。
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