第56話 母の愛
ドラゴンとの戦い。
そして先程からの堕天使との攻防。
今は不完全な堕天使の力と言えど、その力はやはり膨大で、シルヴィアも大きく魔力を消耗していた。
「――な!? こんな時に……!」
「ふははは……やはり魔力! 魔力こそ絶対的な力!」
勝ち誇った堕天使の声も頭に入らない程、体を襲う喪失感が酷い。
通常はビビアンのように魔力量を調整し、減って来れば肉体のそれと同様に疲労感を感じてくるものである。
常に全力で立ち回っていたからこそ、急激に底についた魔力に気が付かなかった。
「……くっ……こんなところで……アンジュの……」
「はーっはっはっは! 惨めに跪いて……どうしたんだぁ!?」
「ぐぅっ!?」
「シルヴィアさん!」
厭らしく笑いながら、シルヴィアの顔を蹴り上げる堕天使。
ロクサーヌが離れたところから回復魔法を飛ばすが――。
「邪魔をするな小娘。貴様は後で可愛がってやるから待っていろ」
「ぎゃぁっ!」
堕天使が手を振り上げる。
それだけでロクサーヌを吹き飛ばした。
「……アンジュ様っ!」
何とかアンジュだけは傷つけさせまいと、アンジュに覆いかぶさるロクサーヌ。
「きっさ……まぁ……!」
大切なものたちを傷つけられた怒りで、どうにか立ち上がるシルヴィア。
「はっはっは! 無様無様っ!」
フラフラと斬りかかるシルヴィアを足蹴にする堕天使。
「そうだ、いいことを考えたぞ!」
「――!」
シルヴィアは気付いてしまった。
次に堕天使が言うであろうことを。
「今から貴様の手足を捥ぎ取る。もし貴様が声1つ上げなければ――」
◆◆◆
アンジュはまだ地獄に囚われていた。
終わることのない苦痛を味わいながら、何度も大切な両親を目の前で――。
「……」
最早痛みにも慣れ、顔色1つ変えないアンジュ。
ただし、その顔は絶望に塗れていた。
そして遂に、変化が起きた。
「もういいのよ」
「……?」
突如、目の前の光景が消え失せ、白い空間に放り出されたアンジュ。
彼に声をかけたのは――。
「もう頑張らなくていいの」
「お……母、さん?」
アンジュの母親。
「ゆっくり休みましょう? もう、疲れたでしょう?」
「――ぼ、ぼくは……!」
優しく声をかける母親。
「ぼくは……」
「さぁ、お母さんと一緒に……なっ!?」
しかし母親が突如苦しみ出す。
違う、それは母親の姿を模した何か。
「やめっ! 入って……何を――っ!」
先程までとは打って変わり、凄まじい形相をして苦しみ出した母親に似た何か。
「え……? え……?」
「入って……くる、な……やめっ――わたっ、すがたで……! アムを……アンジュを欺くなっ!」
叫ぶと同時、母親の姿をした何かが静かになる。
「はぁはぁ……ふぅ!」
「お、母さん……?」
息を整え、再びアンジュと向かい合う。
「……ふふ! 大丈夫よ、心配した?」
紛れもない、母だった。
天使の血が入り込み、アンジュの中に生じた核。
同時に入り込んでいたのだった。母親の血も、そして愛も。
死して尚、我が子を守るために。
「お母さん! お母さんお母さん!」
「あらあら、いつまで経っても甘えんぼさんね」
「お母さんお母さんお母さん! うわぁぁぁ~ん!」
「よしよし、私の可愛い子。名前の通りね」
「お母さん……お母さん……」
「今までたくさん頑張って来たわね。偉いわ、アンジュ」
「お母さん……」
「きっと……シルヴィアちゃんやロクサーヌちゃんたちのおかげね」
「うん……」
「どうする? シルヴィアちゃんたち、きっとアンジュの事待ってるわよ?」
「シルヴィアおねえちゃん……」
「ふふ。みんなのこと、大好きなんでしょう?」
「うん……でも……」
「大丈夫よ、お母さんが背中を押してあげるから……行っておいで」
アンジュの背中にそっと触れる母。
するとそこに、途方もない光がそこに生まれた。
呆気なく核の歪な意志は消滅した。
勝てる訳がなかったのだ。死の間際でさえ、この家族を結ぶものには勝てなかったのだから。
「お母さん……ぼく、いくよ! だから、ここでまってて!」
「……アンジュ」
飛び立とうとするアンジュを見送る母親。
「お母さんたちは……いつでもあなたを見守ってるからね」
「? うん!」
「愛してるわ……アム」
◆◆◆
「今から貴様の腕を捥ぎ取る。もし貴様が声1つ上げなければ――その娘たちの命はとらないでやろう」
「貴様ぁぁぁっ!!! 私にそれを言うかぁっ!!!」
かつてないほどの怒りを感じるシルヴィア。
しかし意思に反して身体が動かない。
「くそっ! 動けっ! 動け……っ!」
「はーっはっは! 無駄だ!」
必死に体を動かそうとするシルヴィア。
それを嘲笑う堕天使。
「威勢だけはいいな! それがいつまで続くか――なっ!?」
「――っ!」
堕天使が腕を伸ばしたその時――。
突如、アンジュから膨大な光が放たれた。
その光は質量を持ち、温かく、優しく、そして明確な意思を持って堕天使を吹き飛ばした。
「おねえちゃんに……ひどいことをするな!」
3対の翼を生やし、頭上には光り輝くハイロゥ。
その瞳に強い意志を宿したアンジュが戻って来たのだった。
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