第51話 そこにないもの
「ぐぅぅぅっ!!!」
光弾がアンジュを狙っていることを察したハナブサ。
気付けば咄嗟に彼を突き飛ばしていた。
その右手は光弾に撃ち抜かれ、千切れ飛んだ。
「……え?」
アンジュは突然のことに、何が起こったのか理解できなかったが――。
「え? ぁ……ぅぁ……」
「無、事か……アンジュ……」
大好きな、そして命の恩人が自分を守って傷ついたことを理解する。
さらに、光弾が纏っていた魔力にも触れてしまった。
「ああああああああああああああっ!? ああああーっ!」
「アンジュ様!? ハナブサさん!?」
「は? 一体……え?」
アンジュの叫び声にようやく状況に気付き、そして混乱した。
「アンジュ! 落ち着け! ロクサーヌ! ハナブサの治療を!」
ロクサーヌがハナブサを治療する。
しかし失った右腕は元に戻らない。
「わたっ、私が……私のせいで……?」
己の体力のなさが原因で足を止めざるを得なかった。
そのせいで敵の攻撃を受けることになってしまったのではないか。
ビビアンを絶望が襲い――。
「違う……お前のせいではない!」
「……ぁ」
傷を負ったハナブサが叫ぶ。
「お前が必要だから足を止めた! そしてまだ誰も死んではいない! 諦めるな!」
「――また来るぞ!」
次々と飛来する光弾をその大剣で弾き飛ばすシルヴィア。
絶望に沈むことすら許さない敵の猛攻。
「――進むぞ!」
「そんな! アンジュ様が!」
ハナブサが歯を食いしばり、先に進むよう促す。
しかし、頭を抱え蹲っているアンジュの様子にロクサーヌが待ったをかける。
「このままでは埒が明かない! 進むか退くかだが……進むしかない!」
退く。
ここで退けば、間違いなく再び彼の天使は逃亡を図るだろう。
さらに利き腕を失ったハナブサも戦線に復帰することは叶わない。
戻ったとしても、以前のような戦いは望めない。
それは、戦いを死に場所と決めていた彼には受け入れられないことだった。
今ならば、せめて決戦の地にて仲間の盾となろう。
彼の最後の願いでもあった。
「……進もう」
シルヴィアが光弾を弾きながらもハナブサに同意する。
「アンジュがそうなっている原因を! 奴を殺す!」
「ロクサーヌ……アンジュを頼む! 恐らく動き回っていれば……!」
数km離れているところからの精密な遠距離攻撃。
今までは動いていたいたからこそ狙われなかったのでは。
「もう奴まで目と鼻の先だ! 退くよりも辿り着く方が早い! それにアンジュなら戻って来れる! アンジュの力が必要だ!」
退けぬ戦い、そして逃がす訳にはいかない敵。
ここで退いても敵の追撃の可能性もある。
「わかりました。アンジュ様は私が背負います」
覚悟を決め、進むことに同意するロクサーヌ。
「行くぞ! 走れ!」
シルヴィアの号令に、駆け出すロクサーヌ達。
依然降り注ぐ光弾だったが、徐々に攻撃が逸れることが多くなる。
「予想通りだ!」
「走れ! とにかく動くんだ!」
◆◆◆
その頃アンジュは――。
「ふはは! さぁ、もう一度だ!」
「――!? ――!」
繰り返される地獄の中にいた。
「泣け! 喚け! 悲鳴を上げろ!」
首のない父親。そして凌辱される母親を目の前に、自身も耐えがたい痛みに襲われる。
かつての惨劇を、何度も何度も。
アンジュに生じた核、その元となった天使の魔力に触れたことで核が暴走した。
核が生じた人間はいずれ魔物となる。
それは決して姿形だけのことだけではなく、精神をも魔物のそれに変容させてしまうものだった。
暴走した核はアンジュに何度も繰り返し幻覚を見せる。
圧縮された精神世界の中で、何度も何度も。
そうして心を壊し、『肉体を寄越せ』と。
「ふはは! さぁ、もう一度だ!」
「……」
あの時と違うのは、誰も助けになど来てくれないと言う事。
永遠に繰り返される地獄。
「(シルヴィアおねえちゃん……)」
そこには、自身を支え続けてくれた最愛の人もいなかった。
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