第47.5話 幕間 ロクサーヌの過去②
ロクサーヌが父親だった男に蹴り飛ばされてから数日。
「おう、お前、種馬に蹴り飛ばされて頭打ったんだってな」
年が6つ程離れた長兄とすれ違った。
既に10を超えた兄弟姉妹の中でも特に彼とは反りが合わず、会う度に嫌味を言われていた。
「そんな辛気くせぇ顔してりゃ、そら蹴られるわ!」
「……兄さん」
仕方がないじゃないか、楽しいことなんて何もないのだから。
この兄に言っても仕方がないことだと思いつつ、さらに表情を暗くするロクサーヌ。
「俺みたいに周りを元気にするくらい明るくなれよ! そうしたらお前もいい種馬を見つけられるかもな!」
そう言って兄は女性を連れて彼の部屋へと向かって行った。
長兄は母親と価値観が近いようで、若くしてその課せられた使命に邁進していた。
つまり、『開放者』を生ませるための子作り。
兄は『開放者』ではなかったが、血筋で期待された種馬だった。
長兄と別れたロクサーヌはしばらく考えていた。
「……元気」
いつしか自分がなくしていたもの。
何をするにしても、一番見て欲しい人にいて貰えない虚しさから失っていったもの。
「……明るさ……!」
だけど――それを出せたら。
兄の言う通り、周りも元気にでき……母も私を見てくれるのでは。
幼心に勇気と希望を抱き、母親の元へ向かうロクサーヌ。
「お母さん! 遊ぼっ!」
「な、何よっ? 無表情の癖に声だけ大きくて……気持ち悪っ!」
その瞬間、ロクサーヌの中に決定的な何かが生まれた。
「(私は絶対! 1人の人としか結婚しない! そうじゃないと……可哀そうだもの!)」
こうして、彼女は愛すべき人を探しながら救世の旅に出ることを決意する。
このままここにいれば、いずれ母親と同じ道を辿らせられることになる、と。
ジェシーと同じく、彼女を憂いてくれていた人間もついて来てくれることとなった。
元から彼女と近しい場所にいた侍女数名と、中老を超え既に一線を退いた男性の衛兵数名。
特に元衛兵長であるゴンズも同行を願い出てくれた事が、その旅が許可される後押しとなった。
代わりに、男性の同行者はロクサーヌと間違いがあってはいけないと去勢をさせられた。
聖国の、そして旅の目的である次々代の『聖女』を生むための人材足り得なかったからだ。
それでもロクサーヌについて来てくれると志願してくれた仲間達。
彼らと一緒なら、きっと伴侶となる相手が見つからなくても楽しい旅になるだろう。
そう思わせてくれる人たちだった。
そして、彼女が10歳になった年、遂に旅に出ることを許可される。
「行きましょう、私の旦那様を探す旅へ!」
無表情に、だけど明るく。
ロクサーヌたちは旅立ったのだった。
◆◆◆
――それからもうじき6年。
運命の相手と出会えはしたロクサーヌ、それでもまだ道半ば。
「……めちゃくちゃに、だと……?」
目の前の、目をギンギンにして鼻から血を垂らすむっつり女騎士を見る。
「えぇ……求める衝動が抑えきれないとでも言わんばかりに……! あんなことやこんなことをっ!」
相変わらず表情にほとんど変化はない。しかしその心はあの時と全く違う。
友と純粋な愛を語らうロクサーヌのなんと楽しそうなことか。
「……たまらんっ!」
「はぁんっ! 想像しただけで――っ!」
ジェシーたちが見たら、いや、決して見せられない顔をしたロクサーヌ。
彼女の旅は、これからも続いていく。
その生涯をかけて――。
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