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第46.5話 幕間 ハナブサを縛るもの

「今日の昼飯は魚にしよう」




 アースドラゴンを討伐した後。

 しばらくして行商人たちと別れた後も、ひたすらウエス領の首都を目指しながら進むシルヴィアたち。


 その道中、大きな川が流れている場所にて唐突にハナブサが言いだした。

 その手には、行商人から譲って貰った釣り竿が握られていた。




「……さかな?」

「いや、肉がいい」

「私もお肉がです」

「私も肉だな~」


 ◆


 肉食系女子が揃って肉を探しに行き、残ったのはハナブサとアンジュだけだった。


「……」

「えへへ~」


 釣り糸を垂らしながら楽しそうにするアンジュ。

 その横で、うるさくしたら魚が逃げるぞ、とは言えずに黙々と獲物がかかるのを待つハナブサ。


「まだかなー!」

「……」




「おさかなさん!」

「……」




「まだかなぁー」

「……」



 ……。


 ……。


 ……。


 ◆


「(引いている……)」


 ハナブサの釣り竿に反応があった。


「すぅ……すぅ……」


 しかし、彼は動くことができなかった。

 いつの間にかアンジュが彼に寄りかかって寝ていたからだ。


「……」

「むにゃぁ……」


 やがて釣り竿を引く力が無くなった。

 せっかくかかった魚は逃げてしまったようだ。




「ふぅ……」


 少しばかり残念だという気持ちを吐き出し、寝ているアンジュを見つめる。


「……」


 その無邪気な寝顔に、思わず手が伸び――。


「んむぅ?」

「――起きたか」


 さっと手を引っ込める。


「……おさかなさんはぁ?」

「……釣れていない」

「むー!」


 つい、お前は寝ていただけじゃないかと言いたくなるハナブサ。

 どこからどう見ても、父親と息子の姿だった。




 その様子を遠くから眺めている女性が1人。


「……何やってんだか」


 馴れ合わない、関わらない。

 そう言っていた癖に。


 ビビアンが2人を眺めながら、呟く。


「……ほんと、バカね」


 ◆


「そろそろ諦めよう」

「うん……ん?」


 ハナブサが立ち上がろうとしたその時、アンジュの持つ釣り竿に反応があった。


「わわっ! わわわわ!」

「落ち着け。そのままゆっくり寄せて……力強く引け」


 手を伝わる振動、必死に抵抗する魚に驚きと戸惑うアンジュ。


「あわわわわ……」

「大丈夫だ、もう1度やってみろ」


 ハナブサは手を出しそうになるのをぐっと堪え、アンジュを見守る。


「……今だ、もう1度!」

「えーい! ……わー! やったー!」


 見事に釣ることができた魚。

 さほど大きくはないが、両手に抱えて嬉しそうにはしゃぐアンジュ。


「……どうだ、魚は力強かっただろう?」

「うん」

「生きるのに必死だからだ。魚だって死にたくないからな」

「……うん」

「だからこそ、その生き物に敬意と感謝を込めて食べるんだ」

「……うん!」


 かつてハナブサが幼い頃に、自身の父親から聞いた言葉。

 いつの日か自分にも息子ができたら伝えたい、そう思っていた言葉だった。


 アンジュもハナブサの言葉全てを理解できた訳ではなかったが、何となく伝わったようだ。




「わーい!」

「……」


 嬉しそうに抱えた魚ごとハナブサに飛びつくアンジュ。


 それすら拒めず、魚のヌルヌルした感触に顔を顰めるハナブサだった。




 ◆◆◆




 ――その夜、ハナブサは夢を見た。



「魔物を殺せ!」


 抑えきれない怒り、鬼気迫る顔で怒鳴りつけてくるのは、かつてのハナブサ自身だった。


「憎き魔物を殺し尽くせ! 根絶やしにしろ!」

「(そうだ。俺の使命は魔物を殺し尽くすこと)」


「だというのに! 何だその体たらくは! 腑抜けた顔は!」

「(……)」


「魔物を殺せ! アンジュを殺せ! 八つ裂きにしろ!」

「(……言う通り、アンジュも魔物だ)」


 天使と言えど、いや天使だからこそ殺さなければならない。


「邪魔をする者を殺せ! 怒りを忘れるな!」

「(そうだ。アンジュは俺の剣を鈍らせる……)」


「殺せ! 殺せ! 殺せ!」

「……殺す」




 暗闇の中を進む。

 間もなくアンジュの声が聞こえて来た。


「あはははは~」


 能天気に笑っている。

 己が剣を曇らせる存在を、許しておけない。


「待ってよぉ~! ガクくーん!」

「――!」


 今一度アンジュを見る。

 晴れやかな青空の下、草原の中をアンジュと――。


「ガ……ク……」


 2人が楽しそうに走り回っている。


「……」

「アザレア……」


 いつの間にか、自身の横に……最愛だった妻がいた。


「……」

「アザレア……! 俺はっ!」


 優しく微笑む妻は、視線をガクたちに移す。


「……」

「……」


 アザレアは何も言わず、ただ優しく、愛おしく2人の子どもを見つめていた。


「あははっ! みんなもおいで!」


 アンジュの声に導かれ、村の子どもたちが集まってくる。

 あれはゴウカの息子、ヒエンのところの……他にもたくさん。


 一度だって忘れたことはなかった。


 子どもたちはみんなでまた追いかけっこを始めた。

 どの子もみんな笑顔だ。




「……」


 アザレアを見る。

 いつの間にか、周りには村のみんなが集まっていた。


「みんな……! すまない、すまなかった! 俺は……! みんなを守れず……っ」


 ずっと言いたかった言葉。


 許されなくても構わない。ただ、本当に悔やんでいるのを伝えたくて。

 みんなを守れなかった自分が許せなくて……。


「……」


 アザレアは……村のみんなは何も言わなかった。

 ただただ、悲し気に顔を伏せていた。


「ほんと、バカよね」


 そこに、突然ビビアンが現れる。


「そうですね」

「全くだ!」


 ロクサーヌとシルヴィアも現れる。


「何を言って……?」


 突然現れて、全く意味の分からないことを言う彼女たち。


「アザレア……」

「……」


 しかし、アザレアは……みんなは笑っていた。


「大丈夫だよ!」


 アンジュがやって来て、みんなにそう告げる。


「……」


 そして、まるでこれが最後かのようにアザレアが口を動かす。

 懐かしい声はしかし聞こえなかった。


 それでも、何度も何度も同じ言葉を繰り返しているようで……。




「……アザレア」


 ◆


「……夢、か」


 何と自分に都合のいい夢だろか。

 我がことながら吐き気を催すほどだ。


 ガクもアザレアも……村のみんなももういないと言うのに。


「すぅ……むにゃぁ……」


 今日も勝手に忍び込んだアンジュを見る。

 人の気も知らないで纏わりつく迷惑な子ども。


「……」


 瞼にかかっていた髪の毛を撫で上げる。


「……ぅぅん……」

「……」


 何をやってるんだかと自身に呆れ、溜息をつく。




「大……丈夫……すぅ……すぅ……」

読んで下さりありがとうございます(/・ω・)/


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