第43.5話 幕間 ハナブサの過去①
ハナブサがまだ旅に出る前。
彼の村が、魔物に滅ぼされる前。
彼は村の警備隊に所属していた。
と言っても、極小規模の村のため、ほぼ全員が自衛のための戦闘訓練を行いながら農作業に勤しむ。
そんな場所に住んでいた。
「よぉ、ハナブサ! 今日もやったんだって?」
「あぁ! オーガの上位種だったが……何てことはなかった」
当時のハナブサはその力に自信を持っていた。
元より優れた身体能力に加え、幼い頃より学んでいた剣術でも他を圧倒。
さらに『開放者』として魔法の才まで現れていた。
自他共に認める、村一番の守護者であった。
「相変わらずすげぇなっ! 俺たちも見習わなきゃなっ!」
村の男、ゴウカが快活に笑う。
そこには嫉妬も羨望もなく、純粋に信頼と尊敬が込められていた。
「ふん、無理するな。今度生まれるんだろう、2人目が」
「おぉ、だからこそよ! 息子と2人目の子どもも俺が守るんだよ!」
もうじき生まれる愛の結晶。
それを思えばこそ力が湧いてくる。
ハナブサも同じ気持ちを持っていた。
「それもそうだな……頼むぞ!」
「おう!」
◆
「帰ったぞ! ガク!」
「パパー!」
家に帰り、我が子を抱きしめる。
今年で3つ。
何にでも興味を示し、片時も目を離せない元気溢れる愛しい子。
「ははは、母さんに迷惑かけなかったか?」
「うん!」
「おかえりなさい、あなた」
遅れてハナブサを迎え入れたのは、彼の最愛の妻、アゼリア。
いつも自分を優しく包んでくれる女性。
「ただいま。今日はオーガを倒して来たよ」
「それは……大変だったでしょう。無理はしないでくださいね」
「無理くらいするさ! お前たちや村を守る為ならな!」
かけがえのない家族、そして仲間達。
ハナブサが持つ使命感は限りなく強い。
「おーが?」
「あぁ、怖い顔をした魔物だぞーっ!」
怖い顔をして腕を上げ、脅かすハナブサ。
「きゃぁー!」
「ははは、待て待てー!」
「あらあら、先にお食事にしませんと……」
笑いながら走り回る我が子。
それを呆れつつも優しく見守る妻。
この生活を守る為ならば……。
◆
「大変だっ! ハナブサ!」
その晩、村の人々が寝静まった頃。
大声を上げで家に入ってきた村の男、ヒエン。
「――っ、どうした、魔物か?」
ハナブサも寝ていたが、その緊迫した様子に自身を無理矢理起こす。
「ゴブリンだ……」
ヒエンが絶望をその顔に浮かべながら告げる。
「……」
「村を……偵察に来ていた。数匹で……」
ゴブリンによる統率された動き、それの意味するところは――。
「……群れがどこかにある、のか?」
「その可能性が高い」
1匹でフラフラしているゴブリン。
こういった個体は基本的に危険はそこまでない。
そうではなく、明らかに何者かに指示されて行動している個体たち。
ほぼ確実に群れを率いる上位個体がおり、その危険度は比べ物にならない。
「……ナイト程度なら、この村でも問題はないが……」
「ロードが支配する群れなら……」
その危険度は、弱い魔王すら凌ぐ脅威度だ。
「……俺が行こう」
「頼む……っ!」
この時、隊長の指示を先に仰いでいたら。
村で迎撃態勢をとる方針を取っていたら。
もしもハナブサがそこまで強くなければ。
もしかしたら、運命は変わったのかもしれない。
「あなた……」
「アゼリア……俺は!」
「……無理だけは、しないでください。あなたが生きて戻って来てくれたら、私はそれで……」
「……行ってくる!」
いつも自分を優しく包んでくれる妻、そして2人の愛の証であるガク。
最後にその姿を心に焼き写し、ハナブサは夜を駆けた。
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