第42話 障壁を壊す者
「……あんたも大概馬鹿ね」
シルヴィアが落ち着いたと判断したビビアンは男に向かって言う。
「……すまない」
シルヴィアの状態に対しオロオロするばかりで何もできなかったことを責められていると思った男には、謝ることしかできなかった。
「謝ることじゃないけど……まぁいいわ。不器用な男なんかよりも、可愛い男を慰める方がいいもの」
そう言って出て行こうとするビビアン。
「ま、待て! まさかお前また……」
「違うわよ! アンジュの様子を見てくるのよ」
「……え? もしかしてお前もアンジュのことが――」
「それこそ違うわよ! 私はあんたらみたいな異常者じゃないの! 普通に慰めるだけよ!」
大きな音をたて扉を閉めて出て行ったビビアン。
「……私も部屋に戻る。また明日、彼の天使の情報を教えてくれ」
「……わかった」
「おい! アンジュに触れるな! ナデナデしていいのは私だけだ!」
「だったらアンジュ様の身を1番に案じるべきだったでしょ!」
そんな叫び声が聞こえてくる中、男は思慮に耽るのだった。
◆
――翌朝。
「恐らく天使はウエス領の南側のどこかにいるはずだ」
シルヴィアたちが男と合流し、開口一番そう聞かされる。
「ノートンから王国を中心に回るように動いてきたからな」
「そうか。ならば我々はそちらに向かうことにする」
男が今まで何度も追い、そして逃げられてきた相手。
そのおかげでシルヴィアたちは目的地へと近づく。
「……俺も同行させてくれ」
「……」
その提案は不自然ではなかった。
ここまでのことを考えると、少なくても2年近くはこの男も彼の天使を追っていたのだろうから。
ただ、1つだけ気がかりはある。
「……アンジュのことはいいのか? もし少しでも危害を加えたら……殺すぞ?」
「大丈夫だ。俺からは決して関わらないし、何1つ危害を加えない」
馴れ合うつもりもないが、と言葉を加える。
「……まぁいいだろう。こちらも強い仲間が欲しかったところだ」
危害を加えないと言うのならば、この男の実力は本物だと昨日体感したこともあり提案を受け入れるシルヴィア。
「ああ。よろしく頼む。俺の名は……ハナブサだ」
◆
「わぁ~い! おじさーん!」
「実は俺も仲間を探して王都に来たんだ」
馬車に揺られながらウエス領に向かう道中、ハナブサが王都に来た理由を話す。
アンジュが彼の膝の上でゴロゴロしている。
「そうか、可愛いな。で、仲間と言うのは?」
「うむ。実は奴が俺に何度も追われて逃げるうちに厄介な魔法を使いだしてな。それに対処するために仲間を探していた」
「えっへへ~!」
背中をよじ登り、顔をスリスリと擦り付けるアンジュ。
「羨ましいですね。一体どんな魔法ですか?」
「非常に堅い結界魔法だ。奴の住処を中心に展開されていて、これを破壊するのに俺では力不足だった」
ハナブサが早口で捲し立てているのは、アンジュを気にしないためだろう。
「結界、ですか?」
「ああ。その結界を壊すのには一瞬の内に強力な衝撃を加える必要があるという結論に達した」
「あっはっは~! おじさんくちゃあー!」
スンスン鼻を鳴らし、笑いながら顔をしかめるアンジュ。
「鬱陶しくないの?」
「正直鬱陶――」
「あ?」
「そうでもない」
先程からハナブサに妙に纏わりつくアンジュ。
つい『離れろ!』と引き離したところ、シルヴィアに『約束、破るんだな?』と剣を片手に脅されたのだった。
どうやら拒絶するのも危害にあたるらしい。
なのでこうしてなすがままとなっているハナブサ。
「……しかしだな、馴れ合うつもりは……」
「……この子には父がいません」
ロクサーヌが端的に言う。
「……そうか」
ただ、それだけでロクサーヌが何を言いたいかはわかる程度には人生経験を積んできている。
生きていれば、このくらいか。
いや、あいつとは……ガクとは違うんだ。
「……俺からは関わらない。拒絶もしない。それだけだ」
頑なにアンジュと交流することを望まないハナブサ。
まるで、今自分を突き動かす何かが失われることを恐れるように。
「……ふん、やっぱりバカだねぇ」
ビビアンの呟きが誰に聞こえるともなく風に消えていった。
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