第41話 ハナブサ
衛兵たちに仲間内の喧嘩であることを伝え、被害のあった建物等の弁償を申し出、どうにか男を釈放して貰った。
その後場所を人気のないところへ、と言うことで男と同じ宿を取ることに。
「まず、改めてアンジュ様の姿を……」
「うん!」
そう言ってアンジュは隠していた翼とハイロゥを出現させる。
「やはり魔物……天使、か」
約束通り今度はいきなり斬り付けることはなかったが、眼光を鋭くし、尋常じゃない程の殺気をぶつける。
「おい、その殺気をとめろ。約束を違える気か?」
「殺しはしない」
「傷つけるな、そう言ったはずだ」
「……」
男は渋々と言った様子で視線を逸らす。
視界に入ったら殺しかねない、とでも言うように。
「……天使を追っている理由を聞いても?」
「魔物だからだ」
それはおかしかった。
天使は本来、人の希望の象徴であり人類を害することなどなかったからだ。
つまり、この男が追っている天使はアンジュの親の仇である可能性が非常に高く、加えて――。
「その天使に恨みがおありなんですね」
「……その天使にはない。ないが……魔物の存在を許せないだけだ」
並々ならぬ激情を、必死に押し殺して答える男。
彼の天使本人ではなくとも、魔物という存在に何かしらの被害を受けた過去があるのだろう。
特に珍しくもない、ありきたりで悲惨な過去が。
「先程も言ったように、我々はその天使を憎み、仇として追っています。どうかあなたが知っていることを教えて頂けませんか?」
「……先に、その魔物……少年のことを話せ」
男としても譲れないのだろう。
何も知らぬまま、憎い魔物である少年に与することが。
「ふざけるなっ! それがアンジュにとって――」
「いいよ」
激高するシルヴィアだったが、当のアンジュが認めた。
「おじさんに……いいたいこともあるの!」
「……」
殺されそうになり、そして今も睨みつけてくるこの男に、尚も嬉しそうに笑いかけるアンジュ。
彼を見てシルヴィアも渋々認める。
「……お前の事情も話せ。そうすればこちらも話す」
「……いいだろう」
◆
その後、男は語った。
自警団の一員として故郷の村で戦っていたこと。
自身の強さに自惚れ、魔物を深追いしたこと。
結果、大切な人たちを失ったこと。
それからは魔物の存在が許せず、魔物討伐に命をかけていること。
男の話の後、シルヴィアたちのことも話した。
アンジュの住んでいた村が天使に滅ぼされたこと。
今はその仇である天使を追っていること。
情報を得るために王都に来たこと。
そうして――。
「お前は……そうか、あの時の……」
「うん! おじさんのおかげでぼく……いきてる! ほんとうにありがとう!」
シルヴィアたちも知らないことだったが、アンジュを痛めつけてた彼の天使を追い払ったのがこの男だったらしい。
しかし――。
「お前は……確かあの時、四肢が……いや、何でもない」
男が、アンジュは死んだものだと確信するに至った状態。
それを口にするには憚れる。
「……どういうことだ?」
シルヴィアは彼の天使がアンジュを犯したのだと思っていた。
発見した時は五体満足ではあったからだ。
そうしてその結果、核が生じて天使となってしまったのだと。
「……うぅ……」
「アンジュ様、少しお外に行きましょう」
その時のことを思い出してしまったのであろうアンジュが青い顔をする。
それを察したロクサーヌが一緒に部屋から出て行った。
「……奴は……アンジュに何を……?」
2人が出て行ったことにも気付かず、シルヴィアは男に問いかける。
「俺も全てを見ていた訳ではないが……状況としては、ゴブリンに母親が犯され、その目の前であの少年の四肢を天使が――」
「――っ! ――っ!!」
幼いあの子に何と言うことを。
予想していたことより、いや事実を想像してしまったことで精神の限界を超えてしまったシルヴィア。
「――っ! ――っ!」
何度も短く息を吸っては吐き、吸っては吐きを繰り返すシルヴィア。
その様子を見て、ビビアンが聞いたこともないような優しい声色で話しかける。
「ダメよ、シルヴィア。明日、あの子と美味しいものを食べに行くんでしょ?」
「――! ――!」
「あの子と……アンジュといっぱい楽しいことをして……」
「――!」
「また山に登るのもいいかもね。しかたないから、私も一緒に行ってあげるわ」
「――」
「そしたら……アンジュといっぱいハグをするんでしょ?」
脈歴もなく、会話を続けるビビアン。
「ふぅー……ふぅー……」
シルヴィアの呼吸が少し落ち着いてきた頃。
「さ、深く息を吸うのよ。ゆっくり……ゆっくり……」
やがて……。
「すまない、ビビアン。落ち着いた」
所謂過呼吸と呼ばれるもの。
精神に強い圧力がかかった時にこのような症状を起こす者が散見され、一時的な対処もある程度知られていた。
「さすが、長く生きているだけあって物知りだな!」
「は? ふざけんな! 失礼にも程があるわ!」
努めてふざける様子のシルヴィアだったが、ビビアンの両手を握り真剣な顔をする。
「ありがとう」
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