第39話 次の目的地
「ほらアンジュ! おねえちゃんの串焼きもお食べ~!」
「ううん、おねえちゃんもたべて! おいしいよ!」
「ふふふ。アンジュはいい子だなぁ~、よしよし!」
「えへへ~! おねえちゃん、ぎゅー!」
「アンジュはしょうがないなぁ~、ぎゅっぎゅっぎゅー!」
しょうがなさなど微塵も感じられないようなにやけ顔でお返しするシルヴィア。
お礼は1足して、ハグは2足してお返しするのが礼儀である。
「これからずっとこれを見せられるのか」
既に胸焼けしているビビアン。
他人のイチャつく姿など溜まったもんではない、と。
「アンジュ様! 私もナデナデしてあげますから私ともぎゅー……いえ、ちゅーを!」
「んー……でも、ちゅーはいちばんすきなひととだけって……」
誰だそんな狂った価値観を押し付けたのは! シルヴィアかっ!?
ロクサーヌは目の前で行われている光景に我を忘れつつあった。
「……ちなみに、私のことは何番目に好きですか?」
「ん! 2ばん!」
「……まだ舞える!」
舞えはするが、届くことのないロクサーヌの戦いが今始まる。
「……ちなみに私は?」
「えとねー……」
ビビアンの問いに、指を折りながら数えていくアンジュ。
右手を過ぎ、左手の2本が上がった時――。
「……7ばん!」
「……別にいいんだけど! いいんだけど何かムカつく!」
子どもは時に残酷だった。
「何だよビビアン! アンジュに少しでも想われてるだけ幸せじゃないかぁ~」
完全に腑抜けきってしまった女騎士。
女騎士を殺すにはオークでも恥辱の攻めでもなく、甘い男の子だったようだ。
「……で、どうするの?」
「どうって?」
「私たちの旅よ、もういいんじゃない?」
アンジュの仇である天使討伐の旅。
しかしそれも、今の幸せを手放してでも達成すべきなのか。
「……そう、だな」
それもいいのかもしれない。1つの尊ばれるべき結論だ。
シルヴィアが出した結論は――。
「すまない、少し腑抜けていったようだ!」
自身で頬を叩き、気合を入れ直すシルヴィア。
「……少し?」
「アンジュの両親の仇! そしてアンジュ自身を酷い目に遭わせた奴を! 許してなるものか!」
ロクサーヌの疑問が耳に入らない程、改めて固い決意を結ぶ。
「……ふぅ」
ビビアンは自身の思惑とは別の方向に進むシルヴィアを見て、静かに溜息を吐く。
彼女としては本当に旅を終わらせたいだけだった。
「さて、次はどこに行こうか」
「この先は海を挟んでの別大陸ですし……一度戻りながら南下してみませんか?」
「ふむ、南か……サウザー領だな!」
北のノートン領から始まり、東のイース領の端までやって来た一行。
次は南のサウザー領を目指すことに――。
「そう言えば、王都には行ったの?」
「ん? まだだが」
ふと疑問に思ったビビアンが確認のために聞く。
「……鮮度は劣るかもしれないけど、1番情報が集まるんじゃ……」
「……」
「……」
この国の王都。
各地域の情報や物が一挙に集められる国の中心。
「いや、ほら……敵は人目を避けてるはずだし……」
「無計画に山を探索するよりはマシでは?」
「た、鍛錬も兼ねていたし……」
「王都でも道中でもできるでしょ、鍛錬は」
その通りだった。
「……すまないっ! バカな私を許してくれ!」
「大丈夫! おねえちゃん! 大丈夫!」
まず最初に行くべきだったのだ。
天使が現れたなどという滅多にない出来事は必ずや噂となって王都に入っているだろう。
「王都……ですか」
ロクサーヌが俯きながら呟く。
比較的常識のあるロクサーヌが王都に行くことを提案しなかったのには訳があった。
「私は正直行きたくありません」
「どうしたんだ?」
「その……王都というか、そこに集まる貴族から求婚されることが多くて……」
『開放者』として広く知られている聖女。
血筋的にも彼女の容姿的にも、彼女を狙う権力者は少なくない。
「以前行ったことがあるのですが……その時は護衛長のゴンズのおかげで難を逃れることができましたが……」
どうやら以前王都に行った際に嫌な思いをしていたらしいロクサーヌ。
「私でさえ大変な思いをしましたから……アンジュ様のような天使が――」
「大丈夫! ローちゃんはぼくがまもるよ!」
「行きましゅ!」
ロクサーヌは正常な判断が下せなくなった。
「それじゃ、王都に行くってことで!」
「う、うむ……」
もう山道は散々だと思っていたビビアンとしては上々の結果となったが、シルヴィアはまだ腑に落ちない顔をしている。
「その……アンジュは姿を偽れるから問題ないとして、ロクサーヌは本当に大丈夫だろうか? もちろん全力で守るつもりだが……」
「あー……大丈夫じゃない?」
気楽な感じで返すビビアン。
「本当か? 仲間の身を危険に晒すくらいなら別の方法も……」
「大丈夫よ、多分。いや絶対」
ビビアンにはある確信があった。
こうして一行の次の目的地はこの国の中心、王都となった。
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