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第37.5話 幕間 アンジュを襲った地獄

※残酷なシーンがありますので、ご注意ください。

 それは突然やって来た。


「ゴブリンだ! ゴブリンの群れだぞ! 戦えるものはこっちだ!」


 アンジュたちの村を襲った悲劇。

 人類の活動拠点を広げるべく、日夜奮闘してきた開拓村の人々を襲った惨劇。


「戦えないものは……いねぇな! 子どもは家の中に引っ込んどけ!」

「ゴブリンナイトだ! 俺がやる!」


 開拓村、それは常に魔物の脅威に晒されている。

 群れの襲撃は初めてだったが、ゴブリン程度は問題ないはずだった。

 その程度の戦力はあるからこそ、開拓という名誉の仕事についているはずだった。


「……お、おい! あれ……!」

「……ロードはやばいって……何でこんなところに……!」

「腹ァ括れ! 妻や子どもを守るんだ!」


 必死に抵抗する村人だったが――。


 ◆


「(……お母さん! お父さん!)」


 家の中で息を殺して泣いている少年がいた。

 『お母さんたちがいいと言うまで静かにここにいてね』、そう言われてただひたすら待っていた。


 しかし、突如として轟音とともに家の半分が吹き飛んだ。

 そこにいたのは、息を飲むほどの美しさを持った人間のような姿をした存在。


 もしかして、助けに来てくれたのでは?

 そう希望を感じさせるような神々しさを持つ存在だった。


「喋るな、静かにしていろ」


 しかし、その存在が少年の頭を鷲掴みにして持ち上げる。


「ぎゃあっ!? いたいっ! いだいよぉおーっ!!!」

「黙れ」

「ふぐぅっ! うぅぅ……」


 頬を叩かれるも、必死に悲鳴を押し殺す少年。


「やめてっ! 息子に……アムに手を出さないで!」


 少年の母親が、ゴブリンに囲まれた母親が必死に叫ぶ。


「いいだろう。貴様が余興に勝てれば、な」

「なっ!? ……いいわ!」


 内容はわからない。どうせ禄でもないことだろう。

 しかし、何が何でも勝たなければならない。息子を救うためならば。

 母親の逡巡は一瞬で終わった。


「何、簡単なことだ。お前がゴブリンによって辱めを受けるその間、一言も発しなければ息子を助けてやる」

「……わかったわ」


 予想通りだった。その程度の事、アムを救えるのであれば何も問題はない。

 そう思い、母親が言われた通りにゴブリンの前へと体を差し出す。


 その瞬間、ゴブリンが我先にと群がった。


「お母さん! お母さん!」




 自分を守るため、その身を差し出した母親。

 それを見ることしかできない自分。


「お前にも……そうだな、お前はこれから順番に手足をもぎ取ってやろう」

「そっ! そんなぁっ!?」


 到底子どもには耐えられない拷問。

 それでも、少年が出した答えは――。


「同じく、一言も喋らなければ母親を救ってやるぞ? どうする?」

「やる、やるからどうか……お母さんを――っ!?」


 その瞬間、まるで人形のような気軽さで少年の腕をもぎ取る天使。


「早速煩いぞ」

「――!? ――!?(いたいいたいたい! だめだいたくない!)」


 しかし、少年は耐える。

 耐えるしかなかった。


「ほう……? やればできるじゃないか」

「――!(お母さん! ぼくいたくないよ!)」


 1つ。


「人間の子どもも、案外丈夫なんだな」

「――!(ぼく、がんばるから……!)」


 さらに1つ。


「……ふん」

「――!(お母さん……!)」


 そして、最後の1つを――。


「……」

「――!(やったよ、お母さん……これでもう……)」


 天使の顔が表情もなく少年を見つめていた。

 まるで、期待外れのおもちゃを見るように。


 しかし、その美しい顔を歪ませ少年に温かい光を放つ。

 失った手足が元通りになり、それ以外にも失った血液すらも回復させる。


「ふはは! さぁ、もう一度だ!」

「――!? ――!(そんなっ!?)」


 ……。


「どうだ! 悲鳴を上げればお前を助けてやるぞ!」

「(お母さん! お母さん!)」


 ……。


「泣け! 喚け! 悲鳴を上げろ!」

「(お母さん……)」


 ……。


「母親のことなどより自分を優先してみろ!」

「(だいすき……おかあさん……)」


 ……。


 ……。


 ……。




 突然襲って来た、終わりのない地獄。

 しかしそれを終わらせる者もまた、突然やって来た。


「死ねっ!」

「――っ!? ぎゃあああああ!?」


 その男は背後から天使を斬り付けた。

 しかし天使は直前で回避、片翼を落とされるに留まった。


「……くっ!」

「なっ!? 待てっ!」


 数度の攻防の末、天使は飛んで逃げ出した。


「っち! 片翼でも飛べたか。あるいは魔法か……」


 男は悔しがりながら足元を見る。


「……これでは、もう……」


 少年だったものに気付く。

 近くにはゴブリンに蹂躙されていた、母親らしき女性だったものがいた。


「せめて一緒に……すまない、仇は必ず取る!」


 少年を母親の亡骸の傍に横たえ、男は天使を追うために駆け出した。




「……」


 生きる希望も、家族も、声も、手足も……何もかも全て失った少年が最後に見たのは、その男の後ろ姿だった。

読んで下さりありがとうございます(/・ω・)/


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