表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/74

第37話 折れた心

「ぜぇー……はぁー……ま、負け……」

「はっはっはー! やはり私の勝ちだったな!」

「……」


 最後に到着したロクサーヌが息も絶え絶えになりながら倒れ込む。


「こんなの無効だ! あんた泳いでないじゃない!」

「? 別に泳ぐ勝負とは言っていないぞ!」

「そうだけど……そうだけど!」


 そう、シルヴィアは泳がない。否、泳げなかった。

 だから走った。海面を走ったのだった。


「海の上を走るって……意味わかんないんだけど……」

「まず水の上に足を出すだろ? その足が沈む前に反対の足をだな――」

「やり方を聞いているんじゃないわよ! それにそんなことでできる訳ないでしょ! はぁ……」


 呆れかえるビビアン。

 こいつとは考え方が根本的に違っていると諦める。


「しかし……正直がっかりだぞ! お前ならもっとこう……魔法でバーンと――」

「……あ?」


 シルヴィアのその言葉が、ビビアンのお高いプライドを刺激した。


「いいわ。ならば見せてあげる! 私の新必殺技を!」

「ほう……いいだろう! かかってこい!」


 突然始まる戦いの第2ラウンド。


「見なさい! あんたに――から――新――」

「――短期間――やるな!」




 そんなことなど気にも留めず、ロクサーヌはただ倒れ込んでいた。


「うぅ……」

「おねえちゃん……」


 それを優しく翼で扇ぎながら心配そうに見ているアンジュ。


「……アンジュ様ぁ……」

「む~……大丈夫……?」


 体はしんどい。しかし心は晴れやかだった。

 この日の勝者は間違いなく自分だろう、と。


「(アンジュ様が私を……私だけを見ている……! 私を心配そうに呼びながら……ん?)」


 そこであることに気付いたロクサーヌ。


「……名前で、呼んでくれませんか……?」


 そう、ロクサーヌは1度も名前で呼ばれたことがなかったのだ。


「? ロきゅサーぬ、おねえちゃん?」


 それもいい。だが――。


「ふふ、言いやすい呼び方でいいんですよ?」

「む~……」


 しばし考えるアンジュ。


「……ローちゃん!」

「――っ! はいっ! あなたのローちゃんでっす!」


 にこにこと笑顔のアンジュを見て、勝利の笑みをニヤリと浮かべるロクサーヌ。


「(聞きましたかシルヴィアさん! アンジュ様が私の愛称を……そう、愛称を! 愛を込めて呼ぶ名を付けてくれましたよ! どうですか! シルヴィアおねえちゃん!)」


 勝ち誇るロクサーヌ。


「はぁ……可愛い尊い……食べてしまいたい……」

「ふぇっ!?」

「(しまった! 心の声が!)」


 興奮しすぎて、思わず漏れてしまったロクサーヌの汚れきった心の声。


「うぅ~……」

「(ど、どうしましょ……アンジュ様が……)」

「……いい、よ……」

「(アンジュ様が!)」


 ぎゅっと目を瞑り、片腕を差し出してくるアンジュ。


「そっちじゃなくてぇ……ここがいいですぅ~……!」


 アンジュのふにふにとしてぷるぷるとした柔らかく白いほっぺに聖女が口を開けてカプリと――。




 そこで意識がプツリと途絶えたのだった。


 ◆


「見ろ! カニさんだぞ!」

「わぁ~!」


 砂浜に倒れ込んでいるロクサーヌとビビアン。

 ビビアンはまた負けてしまったようだ。


「……どうなってるのよ、あの女……全然私の魔法が効かないじゃない……」

「……愛、だそうですよ」


 ロクサーヌが欲してやまないもの。


「いや、どう見ても魔力……愛で強くなるってこと……? そんなバカな……」

「違うとは思いますけど……」


 ビビアンが昔に切り捨てたものでもある。


「カニさんはなぁ! 手が無くなってもまた生えてくるんだぞ! この手がまた美味しくってなぁ!」

「……」


 この時のことは生涯忘れないだろう。

 シルヴィアはそう悔やむこととなる。


「ほら、パキっと……手だけ貰って逃がしてやろう! ……アンジュ?」

「――っ! ――っ!」


 突然喉を抑え、苦しみだすアンジュ。


「どうした!? どうしたんだアンジュ! おいっ!」

「――っ!」


 声を上げず、まるで地獄の苦しみを味わっているかのようにのたうち回っているアンジュ。


「アンジュ様!」


 ロクサーヌの魔法が優しくアンジュを包むが――。


「――っ! ――っ!!!」

「ど、どうしたのよ……何が起こって……?」


 一向に収まる様子がない。

 ビビアンはただ呆然と眺めているしかできない。


「アンジュ! アンジュ! くそっ……誰か……どうか……!」




 やがてアンジュが気を失うまで、その場に立ち竦むしかできない3人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ