第36話 浜辺の勝負
「む~……」
「っく……海とは……かくも強敵であるか!」
「ふわわわ~……」
木陰で横になるシルヴィアとロクサーヌを、それを優しく羽根で扇いでいるアンジュ。
「それじゃ! 私はちょっと行ってくるわ!」
「うむ……気を付けるのだぞ……」
バカの相手はしていられないと、砂浜を歩き出すビビアン。
「(あんな子どものどこがいいのか全く理解できないわ……あんなのよりも――)」
「へい美人な姉ちゃん! 1人かい? 良かったら俺たちと砂浜でパーリナイしようぜぃ!」
「そうそう! ほらこっちでBBQやってるからさ! おいでよ!」
ビビアンが海に求めているのはこれだった。
「あら、美味しそうな匂い! 楽しそうね!」
「うぇ~い! お姉さんがいてくれるともっと楽しくなるぜ!」
「うぇ~い! レッ! パーッ!」
真昼間からイケてるメンズとパーリィすること。
◆
「お、いたぞ! ビビアン! そんなところで何してるんだ! 行くぞ!」
「……」
しばらくビビアンが男たちとパーリィしていたところ、復活したシルヴィアがやってきた。
「おっ! こっちの姉ちゃんもなかなか美人さんじゃん!」
「良かったら俺たちと――」
「近づかないで貰おうか」
ナンパな男たちがシルヴィアに近付こうとしたところ、周囲の温度が下がったと錯覚させるような眼光で睨まれる。
「う、うぇ~ぃ……真昼間なのに急に寒くなって来たぞ……」
「うぇ~ぃ、……パーリナイしすぎたか……?」
夏の海は人をおかしくさせる。
「ちょっ! 私は今この人たちと――」
「あっちの離れ小島に行くことになってな! 行くぞ!」
「ちょっ! 待っ! あー……」
無理矢理引きずられていくビビアンを呆然と見つめる男たち。
「な、なぁ……あの島って」
「あ、あぁ……確か……出るって噂が……」
◆
「もう! 何なのよ! 人がせっかく楽しんでたのにぃっ!」
「? 肉が食べたいならまた狩りに行くか?」
「ちげぇわよっ! 男よ男! 私は男にちやほやされたいの!」
「? 男ならアンジュがいるじゃないか。この世のどんな存在よりも尊い男だぞ!」
――違う、そうじゃない。
ビビアンが求めているのは子どもではなかった。
「まっ! アンジュがお前をちやほやすることはないがな!」
「はぁっ!? 何なのよあんた! 私にどう思って欲しいのよ!?」
そう言ってアンジュを抱きしめるシルヴィア。
シルヴィアの言動が、自分をどうしたいのか、全く理解できないビビアンだった。
「うぅ……おねえ、ちゃ……」
「どうしたアンジュ……はっ!?」
いつもより薄い布地。いつもより感じられる温もり。いつもより感じる柔らかさ……。
アンジュは恥ずかしがった。
「……いいんだぞ、もっと触っても……」
「さすがにそれは止めるわ」
シルヴィアを思いっきりはたくビビアンだった。
……。
……。
……。
「よしっ! 向こうの島まで競争だ!」
正気に戻ったシルヴィアが、やはり正気と思えないことを言いだした。
「うん!」
「いいわよ。勝った方が今夜のアンジュ様との添い寝権が貰えるってことで!」
「それは無理だ」
「あ、はい」
向こうの島。
シルヴィアが指さす場所にあるのは最早点にしか見えない島だった。
「私も無理よ、あんな島まで……そもそもどうやって行くのよ」
「方法は任せるぞ! とにかく競争だ!」
シルヴィアとしては、優秀な魔法使いであるビビアンが何をするのか見てみたい一心だった。
先の戦いでも、彼女が繰り出す数々の魔法に内心感嘆としていたのだ。
決して人目のつかないところで白昼堂々とアンジュを愛でるための提案ではなかった。
「いやよ。何でそんなことをしなきゃ――」
「万が一お前が勝ったら……そうだな、借金はチャラにしてやろう!」
「――まぁ、別にいいけど」
目の色を変えるビビアン。
「私が勝ったら……ナデナデを所望します! もちろんアンジュ様の! 2人っきりで!」
「さて、準備はいいか?」
サラッとスルーされるロクサーヌ。
「アンジュは2人についていてあげてくれるか? 何があるかわからんからな!」
「うん!」
「(勝った)」
ビビアンは勝利を確信した。
アンジュの身体強化を施す支援魔法はかなり有用であると、散々山道でお世話になったビビアンは知っていた。
「さらに! 私はハンデとして10分ほど遅れてスタートするぞ!」
「いいんですか? 本当に私が勝っちゃいますよ? 今更変えられませんからね!」
「(バカめっ! そうやって余裕こいてるがいいわ!)」
静かな闘志を内に秘め、ビビアンの戦いが今始まる。
「では……よーいスタート!」
「あわわわ……アンジュ様、ちょっと体が重いので支援魔法頂けませんか?」
「(なっ!? こいつ同じことを……!)」
シルヴィアの合図と同時、ロクサーヌがわざとらしい口調でアンジュに支援魔法を要請する。
「わ、私もよ!」
「うん!」
何も疑うことなく2人に身体強化を施す天使。
「あは! これで貰ったわ!」
「あっ! ちょっと待ってー!」
勢いよく泳いでいく2人を眺めるシルヴィア。
「ビビアンは流石だな。泳ぎ方も洗練されている。ロクサーヌは……何だか犬みたいだ」
綺麗なフォームで泳ぐ者と、まるで犬が必死に暴れながら進む者。
2人の勝負は決まったようなものだった。
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