第31話 マナガルム
突如いなくなったシルヴィア。
違う、そうじゃない。猛烈な勢いで突き飛ばされたんだ。
あの黒い狼に。
「シ、シルヴィアさん? ……シルヴィアさん!?」
「……油断した」
「良かっ――!?」
思いの他近くにいたシルヴィアだったが、その額からは大量の血が流れている。
「だ、大丈夫ですか!?」
「問題ない。そうだろ、アンジュ!」
「うん!」
すぐに回復魔法をシルヴィアにかけるアンジュ。
「……ぁ」
回復はロクサーヌの役目、しかし焦ってしまいアンジュに先を越される。
アンジュはわかっていた。シルヴィアなら何も問題ないと。
「大丈夫! あの程度、私の敵ではない!」
「グルルルルゥ……」
大剣を構え、黒い狼に向かって行くシルヴィア。
狼の方も、自身の一撃を食らって尚立ち上がる彼女に改めて警戒を高める。
「はぁっ! たぁっ!」
「……」
何度か剣で薙ぐが、全て躱されてしまう。
早さでは圧倒的に狼の方に軍配が上がり、隙を見てはシルヴィアに攻撃を加える。
「……ふむ」
「シルヴィア様!?」
するとシルヴィアは何を思ったか、剣を背に納め棒立ちになる。
「ガァァッ!」
ついに諦めたかと、狼が大口を開けてシルヴィアに噛みついた。
この鎧ごと噛み砕いてやろう。岩どころか鉄をも噛み砕いてきた彼はそう思っていたが……。
闘気を纏ったミスリルの鎧がそれを許さなかった。
そして――。
「捕まえたぞ!」
この機を逃すまいと、シルヴィアが狼の口をがっちり掴み回転しだす。
「グルゥゥ!?」
「おぉぉぉぉっ!」
何度も回転し、狼の噛む力が弱まったのを感じた瞬間、手を離す。
「ギャンッ!?」
轟音と共に岩山に衝突した狼、そこに剣を掲げたシルヴィアが襲い掛かり――。
「――っ!」
「……」
首を断ち切った。
「やった! シルヴィアさん!」
「……」
魔王を倒した後も周囲の警戒を怠らず、アンジュたちに向かって叫ぶ。
「さぁ! 残党狩りだ! 気を抜くんじゃないぞ!」
◆
「ふぅ……結局、彼の天使はいなかったな」
やがて取り巻きの魔物が片付き、大きく息を吐くシルヴィア。
「……一時はどうなるかと思いましたが、さすがシルヴィアさんです」
「うむ! ロクサーヌの支援にも感謝だ! それとアンジュも、よく頑張ったな!」
アンジュを抱きしめながら頭を撫でつつ頬をスリスリする。
「うん!」
「うむ、うむ! よく頑張ったな!」
実際、アンジュの魔法は周囲の魔物を一掃するのに非常に有効だった。
天使という種族特性もあるのだろうが、シルヴィアとともに過ごす中で培われたのもあるのだろう。
「(……それに比べて私は……)」
2人に比べてできたことは少ない。
「……アンジュはまだ周囲を見ることが苦手でな、周りを良く見ているロクサーヌが一緒にいてくれると安心だ」
「そう、ですか」
シルヴィアが私を励ましてくれるなんて珍しい。
そう考えていると――。
「本当にお前の働きには助かっている。しかし、それ以上を望むなら……」
「……」
「……頑張れ、応援しているぞ! 時間はたくさんあるからな!」
「……ふふ! 何ですかそれ」
少しだけ心が軽くなるのを感じた。
◆◆◆
「おい! お前ら!」
魔王である狼を討伐し、街への道を進み始めて数日後。
突然2人の男に声をかけられた。
「この先に魔王が率いていると思われる魔物の群れが出たらしいぞ! 万一出くわさないうちに街に戻った方がいい!」
どうやら親切心で注意してくれたらしい2人組。
「忠告感謝! ここから北に数日行った先にやつらの根城があったぞ! 討伐は既に成しているが!」
親切には親切を。
彼らの探しているであろう魔王がいた場所を伝える。
「……詳しく話してくれ」
「うむ!」
互いに腰を下ろして情報交換することになった。
「俺たちは斥候として群れの規模と特徴を確認しに来たのさ」
「討伐隊を組むか、迎え撃つか……だな」
どうやら街の対応よりも早く行動していたらしいシルヴィアたち。
知らせてくれた男は本当に入りたての情報を届けてくれたようだ。
「人に優しくするといいことがありますね~」
「うん!」
細かく情緒教育に精を出すロクサーヌ。
「黒い狼……恐らくマナガルムか? 規模的には脅威度Cと言ったところか……」
「そうだな。後はミノタウロスとかいた気がする。他にもいたが、名前がわからん!」
あまり魔物に詳しくないシルヴィアだった。
「とにかく礼を言うよ! おかげで俺たちもこの辺の街や村も楽ができる!」
魔王という存在が産み出す緊張感は計り知れない。
下手をすれば街が1つ滅びてもおかしくないからだ。
「さて、俺たちは確認のため先に進むよ! 街の衛兵団の詰め所にも報告して貰ってもいいか?」
「俺の名はローブ。名前を出せばわかるはずだ」
「わかった! 道中気を付けてな!」
そう言って発っていく2人を見送るシルヴィアたち一行。
「さ、我々も早く戻って街の人達を安心させてやろうじゃないか!」
読んで下さりありがとうございます(/・ω・)/
ブックマークと、高評価ありがとうございます(´;ω;`)ナケル
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