第30話 魔王率いる群れ
「ぜぇー、ぜぇー……」
街での慈善事業から数日、一行は再び山道の中にいた。
目的はもちろん、街の人間から聞いた魔物の群れ。
「す、みません……もう少しゆっくり……というか、本当にこっちで合ってるのでしょうか」
「むぅ……確かに闇雲に歩き回っても見つからんか」
しかし3人によるローラー作戦。当然見つかる訳もなく――と思いきや。
「……ん?」
「あ」
1度、複数の魔物の気配を察知する2人。
「……向こうに魔物の気配がする」
「そう、ですね。しかしこれは……」
あまりにも多い。その気配は10や20ではきかない。
「……見つけたぞぉ……!!!」
「お、お待ちくださいシルヴィアさん!」
今にも駆け出しそうなシルヴィアを制止するロクサーヌ。
「何だ!? もしかしたら――」
「わかっています。ですが、一旦落ち着いて……アンジュ様も心配そうですよ」
「……おねえちゃん……」
不安そうな顔を浮かべるアンジュ。
「……うむ、すまない。冷静さを欠いた」
「いえ。私にはそれくらいしかできませんから」
実際に戦いが始まってしまったら……自分はきっと何もできないだろう。
だから、それまでは全力でサポートに当たると決めていたロクサーヌ。
「それくらい、などと言うな! お前には既にたくさん助けられているからな!」
「……ふふ。さぁ、それでは行きましょう!」
「うん!」
◆
数刻後、先ほど感じた気配の元へと辿り着いた一行。
小高い丘から様子を窺う。そこにいたのは――。
「……くっくっく」
「これは……」
「……」
対照的な表情を浮かべる2人。
アンジュは……無表情であった。
「想定以上です! 私の認識が甘かった! 退きましょう!」
認識不足。
ロクサーヌは知らなかった。魔王の群れがどの程度の規模かと言うことを。
眼下にいるものたちのように、100を超える魔物が率いられていると言うことを。
「何故だ?」
「何故って! 言ってるでしょう! 想定外、認識が甘かったと! 無理です!」
「問題ない。それに……」
シルヴィアの視線を追うロクサーヌ。
そこには牛の化け物ミノタウロスや巨大な蛇の魔物など、様々な魔物がいた。
こちらを向いて。
「――! バレて――っ!?」
「我々に魔物の気配がわかるように、敵にもわかるのだろう。さぁ――」
闘気を発し、戦闘体制を取るシルヴィア。
魔物もそれぞれの構えを取る。
「殺し合おうか!」
「ブモォォォー!」
まず5匹ほどのミノタウロスが一斉に突撃してくる。
それを迎え撃つシルヴィア。
両者が衝突したと思った瞬間、5匹のミノタウロスが漏れなく両断されて吹き飛ばされる。
「なっ!?」
まさかこれほどとは!
驚きを隠せないロクサーヌ。
「キシャーッ!」
「遅いぞっ!」
巨大な蛇が毒液を吐き出してくるがそれを難なく避け、お返しとばかりに斬撃を飛ばす。
縦に避ける巨大な蛇。その攻撃の余波で後方の魔物も少なくない数が巻き添えになる。
「私の怒りは! こんなもんじゃない! 出て来い魔王!」
襲い来る魔物を歯牙にもかけず、次々と吹き飛ばしながら駆け回るシルヴィア。
「……これじゃあどちらが魔王だか……」
「おねえちゃん! すごい!」
どうにかなりそうだと安堵するロクサーヌだったが、次の瞬間再び焦りの表情を浮かべる。
「まずいです! 囲まれてる!」
いつの間に……というよりも、あっと言う間に囲まれてしまったロクサーヌたち。
「グルルルルルゥ……」
それは森の暗殺者。気付いたときには囲まれ、成す術もなく食い殺されると言われている――。
「シャドウウルフ……」
「……」
既に何十匹にも囲まれている。
いかにシルヴィアと言えど、間に合う距離ではない。
死を覚悟したロクサーヌ。それを見つめるアンジュ。
アンジュにとって、ロクサーヌは既に大切な存在だった。
美味しいご飯を作ってくれるのはもちろん、とても優しくしてくれる。
それだけじゃない。
街のみんなを魔法で治した時。憎い彼の天使を両親と偽ると言った時。
本当はとても苦しそうな顔をしていたのを知っている。
だから、彼女を守りたいと思っているし、当たり前だと思った。
「大丈夫!」
純白の翼を広げ、ハイロゥを輝かせながら魔法を行使する。
「グガっ!?」
その瞬間、シャドウウルフたちの頭上から剣を模した光が降り注ぎ、もれなく串刺しにする。
「これは……アンジュ様なのっ!?」
「うん!」
優しい笑顔。
それは決して先日のような、昏いものではない。
「私のために……ありがとうございます!」
ロクサーヌの情緒教育が成果を上げつつある証拠だった。
「そこ! いちゃつくんじゃない!」
オークの上位種、オークロードを屠りながら文句を垂れるシルヴィア。
見ると顔に切り傷がいくつか見える。
「私だって頑張ってるんですから! 少しくらいいいじゃないですか!」
そう言いながらシルヴィアに回復魔法を飛ばす。
「む。感謝する!」
騎士団にいた時はこんなに早く治療されることはなかった。
聖女の名は伊達ではないようだ。
「はっ!」
斬っても斬っても沸いてくる敵。
半分ほど倒したころだろうか、ようやく異変が訪れる。
「ようやくお出ましか? 随分と――」
言葉の途中、シルヴィアの姿が掻き消え、代わりに真っ黒い狼がいた。
「……え?」




