第27話 欲望の街
「突然の声掛け、失礼します。あなた方がシルヴィア様と天使様ですね」
温泉からの帰り道、黒服の男がすれ違いざまに声を掛けてくる。
「脅しの類なら、貴様の死を以て応えるが?」
剣に手をかけ答えるシルヴィア。
しかしアンジュが天使だということはどこから漏れたのか。
真相は彼女の父が毎晩酒場でそのあたりのことを大声で泣きながら話すからなのだが、彼女が知る由もない。
「いいのですか? 突然ここで暴れればあなたが裁かれますよ? お尋ね者になると動きずらいでしょう?」
「……何が目的だ」
相手のペースに飲まれていると感じながらも、その通りだと話を聞くことにするシルヴィア。
「ついて来て頂けますか? 我々のボスがお呼びです」
「……いいだろう。しかしそこの女は関係ない」
「存じていますよ。ぜひ一緒にお越し頂きたい」
「っち! 案内しろ」
いつかこういう輩も現れるかもと覚悟していたが、予想より早かったことに歯痒く思う。
「(正直、どんな手を使おうとシルヴィアさんを害せると思えない。彼らの情報網はなかなかですが、肝心の部分がおざなりですね)」
その様子を冷静に観察していたロクサーヌ。
1番の問題はシルヴィアが私を守る保証がないということだけだと、内心焦っていた。
「……おねえちゃん」
「安心しろ、お前だけは何があっても守ってやる」
しかし首を振るアンジュ。
「……ころす?」
この場にいた誰もがその冷たさに恐れ慄いた。
その昏い目が、いつもよりさらに昏く男を見つめている。
「いいんだアンジュ。そう言うのは私の仕事だ。ほれ、さっさと案内しろ!」
「あ、あぁ……失礼があったのなら申し訳ない。そんな気はなかったんだ」
強気な態度から一転、黒服の男が急いで歩き出す。
一刻も早く任務を完了してこの少年から離れたいとでも言うように。
シルヴィアとしてもこの空気を変えたかったので乗っかることにした。
「(アンジュ様……力に飲まれないで……)」
◆
「ここは……」
門番に入るなと言われていた東エリア。
そこを進み一行が案内されたのは大きな賭博場だった。
「イース領有数のギャンブル場ですよ。どうですか? お話が終わったら一勝負……」
「興味な――」
「んぎゃぁぁぁぁぁっ! また……負け……?」
イラっとした様子で叫び声の上がった方を向く。
そこには長い赤毛を振り乱しながら天を仰ぐ女性がいた。
「何で……何でよぉ! 絶対に今度こそはいけると思ったのにぃ……!」
「お、お客様……本当にそろそろおやめになった方が……もうお手持ちもないでしょう?」
「ま、まだよ! 次こそは絶対に……! まだ……そうだ! 私の服高く売れるのよ! これを担保に……」
末期だった。
「これがあなた達のやり方ですか。遊び気分の観光客を騙して――」
「い、いや一般のお客様にあそこまでやらないですよ! 本当に!」
思わず聖女が苦言を呈すが、慌てて否定する黒服。
悪評が流れるのも不本意ではないらしく、ほどほどにしているらしい。
「どうでもいい、いくぞ」
「は、はい!」
完全に怯え切っている黒服に連れられ、店の地下を進む。
そこにいたのはいかにも裏社会のボスですよ、という風貌の男だった。
「よく来てくれた。俺の名はホワイト・ホワイト。まぁ、楽にしてくれ」
「このままで構わない。こちらの用件は1つだけだからな」
厳つい見た目のホワイトに対し、シルヴィアは一切怯むことなく対峙する。
魔物すら射殺す眼光を持つと言われた男を父に持つ彼女にとって、目の前のごろつきなどどうと言うことはなかった。
「お前らの情報網はなかなかの様だ。アンジュ以外の天使について情報が入り次第私たちに持って来い。速やかにな」
「随分威勢がいい嬢ちゃんのようだが……舐めてるのか? 用件があるのはこっちの方だぞ?」
脅されてここまで来たはずのシルヴィアだったが、既に飽きたように早々と切り上げようとする。
それもそのはず、『闘気』を使うまでもなく瞬殺できる者ばかりだったからだ。
逃げ道を無くすためにここに連れてきたようだったが、寧ろ彼らの逃げ道と攻め手を封じてしまっていたことにすら気付かない。
「お前らは弱みを握ったつもりになって喜んでいるんだろうが……ここに私が来た時点でお前ら終わってるんだぞ?」
「……ふん。おい! 少し痛い目見せて――」
その瞬間、シルヴィアが闘気を少し開放する。
「ひぃぃっ!?」
周りから何人もの人間が倒れる音が続く。
「そこの壁の裏に潜んでるやつ、出て来い」
「――!?」
周囲に潜んでいる者の息を飲む声が聞こえる。
「……ま、待ってくれ降参だ! 俺が本物のホワイトだ! まずは話を聞いてくれ!」
やがて観念したかのように、隠し部屋の壁に潜んでいた本物のホワイトが姿を現した。




