第26話 温泉の町
「ぜぇー……ぜぇー……や、やっと人里に……」
山道を切り開きながら進み、早十日。
そろそろ限界を迎えつつあったロクサーヌの前に見えたのは夢にまで見た人間の町。
「この程度でだらしないぞ!」
「そんなこと言ったって……! アンジュ様だって疲れた顔を――」
「あぁアンジュ! よく頑張ったぞ! 本当にお前は偉い!」
何という落差。
もう少し優しくしてくれても……と思ったが、そんな義理は無かった。
「まぁ、最初は疲れると思ったからな! 今回は特別に温泉がある街を目指して来たぞ!」
「……温泉!」
イース領にある有名な歓楽街ディザイサイト。
交易の中心である先の街、そこから馬車で2日程にあるこの街が娯楽と欲望の中心であった。
「……温泉!」
「わかったわかった! さ、街の入口まで競争だ!」
「……無理ですけど」
さすがにそんな体力はなかった。
◆
「この街は初めてかい? なら東のエリアには行かないようにな」
街の入口に辿り着き、門番と話して中に入れて貰おうとする一行。
「? 何があるんだ?」
「非合法とは言わないまでも、なかなか刺激に溢れてる場所さ」
「そうか。情報感謝する!」
門番と別れ、一先ずは宿へと向かう。
「聞いたか!? 刺激が得られる場所があるんだと!」
「言うと思いました。この場合の意味は悪い意味ですよきっと。我々のような観光客が入ったら最後、身ぐるみはがされて奴隷コース真っ逆さまですよ」
5年間の旅はロクサーヌを逞しくするのに十分な時間だったようだ。
「ふむ? どういうことだ?」
良くも悪くも騎士としての訓練ばかりだったシルヴィアにはわからなかった。
「多分ですけど、賭博場や法に触れない程度のあくどい商売を行っているのだと思いますよ」
「なるほど。ならば忠告通り近づかないでおこう」
「あら意外。あなたなら『許さん!』とか言って全てを滅ぼすのかと思いました」
「失礼な! そこまで猪突猛進ではない! 門番が言っていただろう。非合法ではないと。ならばそれもこの街に必要な要素なのだろう」
いつもとは異なる冷静な判断を下すシルヴィアに驚くロクサーヌ。
そもそも、本来のシルヴィアは比較的冷静な判断ができるのだ。
アンジュが関わらなければ。
「さ、着いたぞ! 早速部屋を――」
「私が取ってきますから!」
◆
「はぁー! 生き返るぅー!」
宿を取り、その勢いのまま温泉へと直行した一行。
枝などでついた傷は魔法で治せるが、溜まった疲れはなかなか取れない。
その疲れが染み出て行くような感覚に、全身の力が抜けていく。
「どうだ! これが温泉だぞ! 私も初めて来たがな!」
「わぁー!」
そして再び疲れが溜まるのを感じる。
どうしてあの人は静かにしていられないのか。
「シルヴィアさん! こういった場所では静かに!」
「お嬢ちゃんもね」
「あ、はい」
通りすがりのおばちゃんに注意されてしまったロクサーヌ。
「はぁ~……」
先程とは異なる溜息が漏れる。
おかしい、どうしてしまったのか。
どうもシルヴィアと行動を共にし出してからいつもの自分ではないと感じる。
久しぶりに落ち着いたことで、そのような考えが浮かんでくるロクサーヌ。
「(私は聖女……どうしてこんな……)」
理不尽な扱いを受けたり、空回ってしまったり……。
「お! ロクサーヌの横に入ろうか!」
「わぁーい!」
自身の横に入ってくる2人。
アンジュが勢いよく入って来たので軽くたしなめる。
「アンジュ様、ダメですよ。温泉には静かに入るものです」
そう言って頭を撫でようとするも――。
「……」
「……」
信じられない程の力で腕を掴まれてしまう。
「……はぁ」
「……うむ」
しばらくの間温泉の気持ちよさを堪能していたが、ロクサーヌが口を開く。
「アンジュ様っておいくつなんですか?」
一緒に温泉に入っている身としては正直気になるところだった。
本音としては、いつか肌を晒す中になろうともそれは今ではない。公共の場ででもない。
「さぁ……17くらいか?」
「あ、ならもう少しですね! ……じゃないです!」
仮に17だとしたら女湯に入っている時点で犯罪である。
「正直なところ、わからん。ただ……天使化してから体の成長はしていない」
「そ、うですか……」
そうなるとあの可愛らしい姿のまま愛し合うことになるのかと、知らず知らずのうちに涎を垂らしてしまうロクサーヌ。
しかし、美しく成長したアンジュも見てみたいという気持ちもあった。
「故に! 私はアンジュの準備ができたらいつでも受け入れる覚悟である!」
「……」
窘めようと思ったが、自分も大差ないことを考えていたと黙り込んでしまう聖女。
疲れたり痛かったりした温泉だったが、何だかんだ旅の疲れが癒えたロクサーヌだった。
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