第25話 想定外
「ぁぁ……おねぇ、ちゃ……んっ……」
翌朝、目を覚ましたロクサーヌが耳にしたのは少女のような嬌声。
「(……は? いやいやいや……エッ! ……いや、え?)」
どうせそう言った雰囲気を匂わせて、実際はそんな怪しいことは一切ないのだろう。
そう思い、勇気を出して寝返りを打つふりしてそちらを向く。
「暴れるな……じっとしていろ」
「……ぅぅ……ぁぁん……」
薄目を開けてみると、真っ赤になりながらくすぐったそうに身をくねらすアンジュと裸の彼に手を這わす目をギンギンにしたシルヴィアが目に映った。
「ア、アウトーっ!」
さすがに見過ごせずにロクサーヌが叫びながら飛び起きる。
「ロクサーヌかおはよう何を言っている私はただアンジュの汗をタオルで拭いているだけだやましいことなど何もないぞ」
予め用意されていたかのように早口で捲し立てるシルヴィア。
「騙されません! その顔どう見てもダメでしょ! それとタオル薄すぎ小さすぎ! そんなのタオルじゃなくてただの布切れじゃないですか!」
シルヴィアの顔と同じくらい真っ赤に興奮してロクサーヌが叫ぶ。
「本当にお前は何を言っているんだ? さ、アンジュ続けよう。次は下の――」
「させるかぁっ!」
ベッドから飛び降り、アンジュを抱き寄せるロクサーヌ。
「……」
「まだ! さすがに早いと思います!」
当たり前だった。
◆
「さぁ! 今日こそ進もう!」
「もう!」
「……はい」
げんなりした様子に、シルヴィアが苦言を呈す。
「何だロクサーヌ! そんな調子じゃ我々について来れないぞ!」
「……行きますよっ!」
誰のせいだ誰の、と言う言葉は飲み込んで。
そうしてしばらく街道を進み……山道に入っていく。
「……?」
踏みしめられていない道ではない道を進み――。
「……?」
時には立ち塞がる木々を切り倒し――。
「……?」
猪のような生き物を……。
「よーしっ! 今日の晩御飯はこれで決まりっ!」
「わぁーい!」
「ちょっと待ったぁーっ!」
日が沈み始める頃、ようやくロクサーヌが現実を受け止めた。
「何だ何だ?」
「何でこんな獣道なんですか!? 街道を行くんじゃダメなんですか!?」
思ってた旅とは全然違った。
どうしてわざわざ街道を逸れていくのか、それがわからなかった。
「何でって……敵は人目を避けて潜んでいるかもしれないからな! それを探しながら次の町へ向かっているんだぞ!」
「それで出会うなんてどんだけですか! こんな広い森の中!」
この広い未開の地で敵に出会える可能性など0に近いのでは……。
「とは言え他に方法がない! 戦闘の訓練にもなるからな!」
「……それは」
「効率的でないのはわかっている。しかし……」
シルヴィアは明るく言っていたが、ふざけている訳ではなかった。
彼の敵を許せる訳もなく、かといって他にとれる手段もない。
明るく振る舞うしかなかった。
「……失礼しました。お詫びに腕を振るってお食事を――」
「む、すまん。もう準備は終わってしまったぞ!」
そこには肉を骨ごと千切り、地面に刺しているシルヴィアがいた。
「いつの間に……って何ですかそれは!?」
「何って……猪肉の串焼きだぞ! 骨だけどな! わっはっは!」
「ま、毎日こういったお食事で……?」
「当たり前だ! ここにレストランなどないのだからな!」
それはそう。しかしできる工夫がある。
「でしたら、勝負しませんか? どちらがアンジュ様に美味しく召し上がって頂けるか!」
「ふむ? いいだろう!」
◆
「どうだアンジュ! 噛み応えがあってうまいだろう! まるで猪その物を食っているかのような旨味もある!」
「……う、うん!」
「ふざけないでください! 半泣きじゃないですか! 肉も固すぎ! 旨味じゃなくて臭み!」
「な、何を言う……そんなこと……ない、よな?」
あった。
「ほらアンジュ様、こちらをどうぞ」
「……」
一瞬顔を綻ばせるが、すぐにハッとしてシルヴィアを見るアンジュ。
「ほら! ……いや……アンジュ、私に遠慮することはないんだぞ」
「……おねえちゃん……」
「嫌なものは嫌だと言ってくれ! 私はお前に遠慮される方が嫌だ! 私はお前の幸せが1番なんだぞ!」
「おねえちゃん!」
ヒシっと抱き合う2人。
それを見つめながらチビチビと美味しくできた料理を食べるロクサーヌ。
「おかしい……どうしてこうなるの? 私に抱き着いてくる流れじゃ……」
残念ながら、ロクサーヌが報われることはなかった。
読んで下さりありがとうございます(/・ω・)/
ブックマーク、誤字報告や温かい感想を頂けると跳んで喜びます!!!




