第23話 旅の目的
「こんにちは、今日からよろしくお願いします!」
無表情、なのになぜか元気な声を発する聖女、ロクサーヌ。
「うむ! ……仲間はどうした?」
「今朝早く発ちました。その方が安全ですので」
別れは昨夜のうちにすませた、とロクサーヌ。
「そうか……ならば我々も行こう! 魔王退治の旅へ!」
「うん!」
「はい! ……はい?」
何か不穏な響きがする単語が聞こえたのだが……。
ロクサーヌは訝しんだ。
「今……魔王退治といいました?」
「ん? あぁ、わかり辛かったか。アンジュをひどい目に遭わせた彼の天使、恐らく魔王であるそいつを無惨にぶち殺す旅に行くぞ! 生きていることを後悔させてやるのだ!」
「……えぇー……」
◆
魔王。
ゴブリンやコボルトと言った例外を除き、基本的に魔物は群れない。
しかし、時にその魔物を束ね、統率する存在がいる。
それが、魔王。魔物の王。
圧倒的な力や知性を以て異種族の魔物同士すら群れとして率い、人類に牙を剥く。
アンジュの村はゴブリンの群れに壊滅させられたと思っていたが、アンジュを悲惨な目に遭わせ、核を生みつけたのは彼の天使である。
考えられるのは、彼の天使がゴブリンを率いているという事。
シルヴィアたちの目的は、この推定魔王である彼の天使を探し出し、討伐することだった。
人類の平和のためにも、シルヴィア個人にとっても重大な目的だった。
「――えぇっと……つまり両親ではなく、両親の仇を探して魔王であるその天使を探して旅をしている、と」
「そうだ! この街に来たのも彼の天使の情報がないか探すためだからな!」
シルヴィアとアンジュの間にあった今までのことを全て説明されたロクサーヌ。
8割はいかにアンジュが可愛いか、というものだったが。
落ち合ったのが昼過ぎだったのに、既に日が沈みかけている。
「(そんなことよりも! 聞いていない! あくまで両親を探す旅じゃなかったのか!?)」
それが両親の仇どころか魔王だなんて。
そんな思いを抱きながらも、そう言えば2人から直接目的を聞いていなかったなぁとどこか他人事のように空を眺めるロクサーヌ。
「……」
「どうした? 怖気づいたか? 今なら……私ならお前らの護衛に追いつくこともできるぞ?」
呆然とした様子の聖女にシルヴィアが声を掛ける。
引き返すなら今だぞ、と。
「……いいえ! 私はロクサーヌ! 愛と意地に生きる聖女! ここで負けてなるものですか!」
「うむ! いい覚悟だ! そうでなくてはな!」
開始早々、まだ始まってもいないが既に意地の勝負となってしまったロクサーヌ。
彼女の報われない旅が今、始まった。
「さて、もうこんな時間じゃないか……今日のところは宿を取ろうか」
「私たちの旅の1日目は……引き払ったはずの宿をもう一度とるところから、ですか……」
何とも幸先の悪いスタートであった。
「しょうがないだろう! 見ろ、アンジュを!」
「……ぅぅ……ん……」
そこには、手を繋ぎながら眠そうに目を擦っているアンジュ。
「はぁんっ! きゃわわぁっ!」
その可愛さに思わず抱き着こうとするロクサーヌだったが……。
「ならん!」
「ぐぇっ!?」
反対の手でロクサーヌの頭を鷲掴みにするシルヴィア。
「旅に同行することは認めたが! お前がアンジュに触れていいのは私が認めた時だけだ!」
「ひょっ……ひょんなぁ……」
◆
「部屋を取って来たぞ」
「ありがとうございます」
「お前の部屋は取っていないぞ?」
「……」
無言で席を立つロクサーヌ。
この程度のことで挫けてなるものか!
「すみません、さっきのお客様で最後の部屋が埋まってしまい……」
渋々当日客の列に並んでいたロクサーヌだったが、幸いにも自身の前で部屋が無くなってしまった。
「よっしゃー! ありがとうございます!」
「……え?」
部屋がなくなった。そうなればさすがにシルヴィアも同じ部屋に入れてくれるだろう。
◆
夕食を取り、早々に眠ることにした一行。
シルヴィアもそこまで鬼ではなかったようで、ロクサーヌを同室にすることを認めた。
というか単純にロクサーヌの分の部屋を取るということに気が回っていなかったらしい。
「……」
「さて、悪いがお前はそこの椅子にでも……」
「どうして! どうしてシングルなんですかー!?」
部屋にあったのは大人1人分にも手狭に感じる最小限サイズのベッドだった。
「そんなの、私とアンジュの2人の予定だったんだから当たり前だろう!」
「2人じゃないですか! 百歩譲ってシングルにするにしても! ベッド小さすぎ! もっと大きいベッドの部屋あったでしょう!」
昨日まで自分が止まっていた部屋が空いたのだからと喚くロクサーヌ。
「うるさいぞ! アンジュが眠れなくなる!」
「……くっ!」
明日からは必ず大きいサイズのベッドの部屋に……そう決意して椅子に座るロクサーヌ。
「おやすみなさい」
「うむ、おやすみ」
「……すみぃ……」
シルヴィアとアンジュが一緒のベッドに向かう。
そして、小さいベッドなのだから仕方がないと、いつものように抱き合って眠りにつこうとする。
「やっぱりぃっ! いくら何でも引っ付き過ぎじゃ――」
子どもとは言え、血のつながりもない、それなりに成長している少年。
若い女性であるシルヴィアが――。
「……3度目はない」
「すみませんでした」
それ以上何も言えないロクサーヌだった。




