第22.5話 ロクサーヌ一行
「私は……正直不安です! 聖女様の身に何かあってはと……」
シルヴィアたちとロクサーヌ達が出会ったその晩。
ロクサーヌ一行は惜別と互いの健勝を祈り、ささやかながらも精一杯豪勢な食事会を開いていた。
会もつつがなく進み、そろそろお開きかといった時、ロクサーヌの筆頭従者が泣きながら告白する。
「ジェシー……」
ロクサーヌも、長年自身に尽くしてくれた大切な従者の思いに言葉を発することができない。
「……大丈夫だろう」
そこで口を開いたのはゴンズ、ロクサーヌの護衛長だった。
初老に差し掛かる年でありながら逞しく鍛え上げられた山のような巨体は、誰もが一目を置く頼れる存在だった。
そのゴンズが、シルヴィアなら大丈夫だという。
「あの娘が持っていた大剣……おそらく、ミスリル製だ。それに見合う実力も感じられた」
最初にロクサーヌが殴られたとき、咄嗟に動こうとしたゴンズだったが……全く動けなかった。
「正直、あの時点で……姫様を守れなかった時点でわしにこれ以上姫様の護衛を続ける資格はない……」
巨体を急激に萎らせ、チビチビと酒の入ったグラスを傾けるゴンズ。
「そんな……私たちはあなたがいたから!」
「いいのです姫様。わしは同時に嬉しいのです。姫様の運命の相手と、姫様を託せる人間が同時に見つかったのですから」
ロクサーヌを姫と呼び、孫のように可愛がっていたゴンズ。
そのセリフに嘘はないようで、萎れた筋肉が徐々に戻りつつあった。
「そうだ、シルヴィアと言えば……確か、豪傑揃いと名高いノートン領の騎士団、その団長の娘が子どもを連れて旅に出たとの噂が……その娘の名は確か……」
「……どう考えてもシルヴィアさんじゃん!」
「どうして旅に出たのかしら……?」
「何でも、あの子の本当の両親を探すためらしいよ」
噂は所詮噂、しかし今回のそれはほとんど事実だった。
ただし、探しているのは両親の仇だったが。
「本当の両親……ってことは天使様ってこと!?」
「すごっ! そんなおとぎ話みたいなことあるんだ……」
ロクサーヌの従者たちがうっとりしているなか、ロクサーヌは疑問を抱いた。
「(ご両親を探す……? まさか両親に捨てられて……?)」
もしそうだとしたら、きっとたくさん辛い思いをしたことだろう。
「私もその物語のような旅に同行できること、嬉しく思います」
それならばあの少年をたくさん甘やかして……そしてべた惚れにさせて見せる!
無表情の下ではそんなことを考えていた聖女。
しかし残念ながらそれは既にシルヴィアが無意識にやっていることだった。
「我々もその旅にご同行できればいいのですが……」
「いえ、いつまでも皆様を私の我儘に付き合わせるわけにはいきません。それに――」
儚げに視線を下に向け、意味深に言葉を切る。
「(『それに――』……何だろう?)」
「(しー! きっと私たちには言えない何かがあるのよ)」
「(お優しい聖女様の事、きっと私たちのことを想って……)」
コソコソと会話をする従者たち。
聖女は知っていた。
こうやって意味深な感じを醸し出せば、周囲が勝手にいい方に捉えると。
「(あんたたちがいたら! 私のアピールポイントが減るでしょう!)」
とは思っていても口に出せなかった。
「……必ずやあの方と伴侶になり、聖国に帰還いたします。あなた方の想いとともに!」
「……はい!」
その後、遅くまで旅の思い出話を語り合う一行だった。




