第22話 1人目の仲間
「いやいやいや、まてまてまて……殺すぞ」
堂々とした略奪宣言に呆気にとられながらも、静かに怒りを込めて脅す。
「お、落ち着いてください! 何も今すぐという訳ではありません!」
今まで受けた暴力を思い出し、必死になる聖女。
「あなた方も旅の途中ですよね!? 私をその旅に同行させてください!」
「はぁ? ダメに決まってるだろう!」
「私はこう見えて結構旅の心得がありますよ! 料理が美味しいと従者の方たちからも好評です!」
「不要だ! 私の料理の方が美味いに決まっている!」
大自然の素材を最大に活かした料理、これにかなう訳がないと自信満々のシルヴィア。
美味しい料理と聞いてアンジュが期待の眼差しを送るが、誰もそれに気が付かない。
「そ、それに……私には回復魔法を始めとした魔法の知識があります! アンジュ様の魔法の才能を伸ばせます!」
「うっ……それは魅力的……いやしかし! そもそもアンジュは『開放者』とやらではない! 実はな……伝承に謳われる『天使』だぞ!」
「それはむしろ『開放者』よりも血筋的な意味では魅力的なんですけど」
そもそもこの聖女の1番の目的は優秀な回復魔法を使える子どもを産むことである。
伝承になるほどの存在が相手、さらにそれが自分の好みの顔立ちならば全く問題がない。
「ぐぅっ……し、しかし! 先も言ったがアンジュは私を愛している! お前を愛することなどあり得ない!」
「――信じられないんですか?」
今までの必死な言動から一転、落ち着いた態度を取る聖女。
「……え?」
「アンジュ様を信じられないんですか? その愛が揺らぐと思っているのですか?」
「そ、そんなことある訳ない!」
「ならばいいではないですか。あなた方は、ただ旅をする上で便利な使用人ができたとでも思えば。私も引き続き旅をすることができますし」
それでもいいかもと思い始めてしまったシルヴィア。
勝利を確信した聖女。
「私に尽くしてきてくれた従者たちですが……そろそろ故郷に返してあげたいのです。ここまで私の我儘に付き合わせてしまって……」
「聖女様……!」
「あぁ……何て慈悲深い……」
次々に涙を流す従者たち。
彼らも自ら志願してこの旅に同行したのだが、辛いものは辛かったようだ。
「むむむ……そういうことならば……いや、アンジュはどうだ? 嫌なら嫌と言って――」
「いっしょっ! いくっ!」
「あ、うん……」
寂しさを覚えるシルヴィアだった。
「ふふ、よろしくお願いしますねアンジュ様」
「うん!」
「自己紹介が遅れましたが、私の名はロクサーヌ。聖女などと呼ばれていますが、今はあなたをお慕いするただのロクサーヌです」
「? うん!」
シルヴィアとしては不本意だったが、アンジュの魔法の能力を引き出せる可能性があること、何よりアンジュが望んでいる様子だったので渋々だが受け入れた。
アンジュとしては、美味しい料理が食べられるようになるのが嬉しかった。
聖女、ロクサーヌとしてもアンジュの愛を掴むチャンスを得られた。
こうしてシルヴィアたちの旅に仲間が加わったのであった。
「(まぁ……アンジュに変なことをするようなら置いていこう)」
「(おねえちゃんにはいえなかったけど……ごはん……おいしくない……)」
「(勝った! 必ずこの子を我がものにしてみせます!)」
◆
「それでは明日のお昼ごろ、この場所でまたお会いしましょう」
ロクサーヌ一行はこのまま全員で食事をとりに行くようだ。
見ると、誰もが俯いており、中には既に泣いている者もいた。
『開放者』に出会うのが目的の旅。
常に覚悟はして来ていたが、いざその時になったら……ということだろう。
従者たちのその様子を見ると、いかに彼女らの関係が良好だったかがわかる。
つまり、聖女ロクサーヌの人柄の良さも。
「……うむ。お付きの方々よ、どうか安心してくれ! 聖女殿の安全は必ず私が守ると……この剣に誓おう!」
騎士らしく、父から譲り受けた大剣を掲げる。
「よろしく、お願いします」
ひと際大きい男が代表して応え、去っていく聖女たちの一行を見送るシルヴィアとアンジュ。
「……さて、私たちは私たちの目的を果たすとしようか!」
「うん!」
シルヴィアたちはさまざまな地域の特産物が並ぶ商店街を冷やかしたり、珍しい食材に舌鼓を打ち……楽しいひと時を過ごした。




