第16話 ゴブリンロード
「……アンジュ、私の後ろにいろ」
「……ぅぅ」
恐怖に震えるアンジュを自身の背後に守り、シルヴィアは剣を構える。
「ゴアッ!」
「ギィッ!」
様子見とばかりに巨大なゴブリン――ゴブリンロードが配下数匹に指示を出し、シルヴィアに突撃させる。
「ふんっ!」
それをシルヴィアは歯牙にもかけず払いのけた。
「ゴォ……ッ」
ロードにとっては予想外だった。
まさかこんなところに自身の障害となり得る敵がいるとは、と。
「ギィッ!?」
「グギャッ!?」
その間にもシルヴィアはゴブリンを切り伏せる。
「ゴァァァッ!」
そしていたずらに配下を失うことを嫌い、自ら対峙することを選んだロード。
「……中々骨が折れそうだ」
シルヴィアも気合を入れ直し、ロードに向き合う。
「グルゥゥゥ……」
「……」
数瞬の間、そして――。
「ゴァァァ!」
「――はっ!」
巨体を活かし力任せに突撃するロードだったが、シルヴィアはそれを受け流す。
「グォッ!?」
「だぁっ! ――ッチ、さすがに堅いか!」
そのまま背中を切りつけるシルヴィアだったが、付けた傷は浅かった。
「だが! この程度の敵! 何の問題もない!」
背後のアンジュを安心させるように大声で叫ぶ。
力が強いだけ、体が大きいだけ。そんな相手は何度も戦って来た。幼少期から何度も何度も。
「グルルルル……ゴアァアアッ!」
しかし、その見下すような大声と久しぶりに感じる痛みがロードを本気にさせた。
「ゴアァァッ!」
「ギィヤァァァーッ!!!」
ロードの咆哮の後、周囲で見ていたゴブリンが一斉にシルヴィアへと攻撃を仕掛ける。
「なっ!? 邪魔だ!」
シルヴィアも応戦するが、数が多すぎた。
1匹切り倒す間に4、5の傷を負ってしまう。
質で劣っていても数で対抗する。
まさに人類が魔物相手にとっている戦法だった。
「くそっ! アンジュ! 壁の中へ――しまっ!?」
「ゴァァッ!」
乱戦の中、ロードが魔法を放った。
ゴブリン種は魔法が得意ではなく、ロードが放った魔法も2m程の岩を飛ばす程度のもの。
しかしこの状況で――配下ごと圧し潰すように放たれた岩を避ける術はなかった。
「ぐぁぁっ!?」
「……ぁぁ!」
アンジュの傍に吹き飛ばされたシルヴィア。
「ア、ンジュ……逃げろ……」
吐血し、痛みに震えながらもアンジェに逃げるように言う。
「うー! うー!」
「……心配するな、私は大丈夫だ……!」
涙を流しながらシルヴィアに駆け寄るアンジュ。
それを制し、ふらつきながらも再び襲い来るゴブリンに立ち向かうシルヴィア。
「かかってこいっ! 貴様ら如きにやられる私ではない!」
「ゴァァァーッ!」
首を切り落とし、腕を爪で裂かれ、胴体を殴られ、頭をかち割り……。
ロードが隙を伺っているのはわかっている。
次は必ず避けてやると覚悟を決めながら。
「(もう2度と! 目の前で家族を失う悲しみを! アンジュに味わわせてなるものか!)」
その一心で剣を振るシルヴィア。
その決意を嘲笑うかのように、目の前に巨体が躍り出て来た。
◆
アンジュには、それがとてもゆっくりに感じた。
何匹ものゴブリンを倒し、それでも減らない緑の悪鬼。
既に満身創痍のシルヴィアの目の前に現れたロードは、確実に敵を殺すために自ら来たのだろう。
絶対に許せなかった。
これ以上シルヴィアのことを傷つける悪鬼を。
そしてアンジェは理解していた。
自身の中にある力の塊。
「(ぼくはどうなってもいい! なににでもなってやる! だから――っ)」
◆
「ぅぁぁああああー!」
アンジュの叫びと共に、ロードとシルヴィアの間に薄い光の盾が出現した。
「な、なんだこれは……?」
「ゴルルゥ……?」
突然の出来事に疑問を抱いたシルヴィア、しかしそんな疑問もすぐに吹き飛んだ。
「ア、アンジュ!?」
アンジュの全身が光に包まれていることに気付いたからだ。
光は徐々に大きくなり、周囲を飲み込むのように広がっていく。
「ま、まさかこれは……魔物化、なのか……?」
「グルルル……」
シルヴィアとロードの両者は揃って動きを止めた。
シルヴィアは遂に来てしまったという緊張から。
ロードは、どこか同胞に似ている気配の誕生に注視するように。
「アンジュ……」
シルヴィアは決めていた。この時が来たら必ず言うと。
アンジュがどんな姿に……例え今目の前にいる悪鬼と同じ姿になろうとも、『私はお前の味方だ』と。
アンジュのために尽くして来た時間。いつしかかけがえのない存在へ。
誰に受け入れられなくても、自分は必ず傍にいる。
「……うー……」
時間にして十数秒、戦いの最中に生じた突然の変化も終わりを迎える。
そして……。
「ア……ぁ……ぇ……?」
シルヴィアを絶望が襲った。
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