第14話 天使
「くそっ! くそぉっ!」
応急処置を施して貰い、急いで訓練場に戻るシルヴィア。
「アンジュ! すまない! 私が守ると誓ったのに――」
「あはっ! いいぞいいぞぉ~! その調子!」
「上手だよアンジュちゃん!」
戻った先で見たものは、女性団員たちに囲まれて追いかけ回されているアンジュだった。
「きさっ!? 殺っ! 許さっ――!?」
一瞬にして頭が沸騰。
それを止めたのは――。
「うー!」
笑顔のアンジュだった。
シルヴィアに気が付くと、即座に飛びつく。
「う?」
「――え?」
アンジュがシルヴィアの鼻を恐る恐る撫でながら心配そうな顔をする。
シルヴィアの表情を見るに大丈夫ではなさそうだ。
再び大量出血しそうなほど興奮している。
「鼻血を出したシルヴィアさんをずっと心配してたんですよぉ?」
「心配で泣きそうだったから、一緒に遊びながらの訓練をしてたんです!」
アンジュ達がやっていたのは、腰に巻き付けた布を取られないように相手を避けて逃げる遊び。
いわゆるしっぽ取りゲームと呼ばれるもの。
「スタミナ配分も考えなきゃだし周りも見なきゃだしで、以外と訓練になるんですよ!」
「そ……そうか……」
彼女らはアンジュのためにちゃんと考えてくれていたのに自分ときたら……。
「すまなかった。その……色々と迷惑をかけた」
仲間を疑うどころか殺そうとしたり。
急に恥ずかしくなったシルヴィア。
「ふふ! いいんですよぉ~」
「そうそう! シルヴィア様の普段あまり見られない一面が見られたしね!」
幸いにも彼女たちは笑って受け入れてくれたようだ。
しかし普段あまり見られない一面とは……?
「どういうことだ?」
「シルヴィア様はいつも凛々しくかっこいいイメージでしたが……それだけでなく、とてもお優しいのだと……」
「それに! ちょっと嫉妬深い!」
あははと笑い合う女性たち。
「また1つ、命をかけられる理由ができました」
にこやかに、しかしどこか神妙に見つめ合う女性騎士たち。
「……そうだな! 本当にありがとう!」
「(確かに、今日のアンジュは普段よりも可愛かった。私の後ろに隠れる姿はもちろん心配して鼻を撫でてくれて――そうだ! 確かにあの時アンジュは言った!『シルヴィアお姉ちゃんが世界で一番好き! 大好き! 結婚して!』と! 私は……私はどうしたら!)」
◆
「ご婦人! 今日も精が出るな!」
あの後、再び鼻血を出して医務室に運ばれたシルヴィア。
このままでは失血死してしまうと、騎士団訓練所を後にした。
次にやってきたのは街の商店街。
いつもそこで串焼きの露店を営んでいるご婦人の所へとやって来た。
「あらシルヴィアちゃんじゃないの! 今日は可愛い子を連れているのね!」
「うむ! 世界で一番可愛いだろう!」
「あらあら! お熱いのね~! でもこの串焼きも負けないくらい熱いわよ~!」
「そんなに熱いのか! では2本頂こう! ご婦人はいつも商売がうまいな!」
「……正直そうでもないと思うけど……あぃよ! 串焼き2本! 熱いうちにお食べ! ……冷めるのも早いんだから……」
どこか意味深なご婦人から串焼きを受け取り、1本をアンジュに渡す。
「どうだ? 美味しいだろう?」
「はふはふ……うー!」
「……はっはっは! ……私のも食べておくれ」
「? うー!」
熱いものをふぅふぅしながら頑張って食べようとしているアンジュ。
人は人智を超えた貴きものを見ると食欲がなくなるのだと、シルヴィアは悟った。
「(くっ……! どうしてしまったのだ私は……さっきから少しだけ変だ……!)」
「……」
串焼きを片手ににこにことしているアンジュ。
この表情は特に感謝しているときの顔だ。
「あぁ! アンジュ……感謝をしているのは私の方だぞ」
「? うー!」
突然叫び出すシルヴィア、それを不思議そうに眺めるアンジュ。
そして2人を見つめるご婦人。
「……最近シルヴィアちゃんの様子がおかしいって噂は本当だったんだねぇ……」
◆
その後も街を散策し、日が暮れる頃に帰路に就く。
夕日に向かって先を歩くアンジュが楽しそうに飛び跳ねている。
「どうだ? 今日は楽しかったか?」
「うー!」
街の人達との交流に重きを置いた今日の散策は成功と言って問題ないだろう。
アンジュもにこにこと嬉しそうにしている。
「私もみんなにお前を紹介できて嬉しかった!」
1つは単純に友人知人に自身の大切な存在を紹介できたこと。
2つめは……。
「(もし……万が一アンジュが魔物の姿になっても……)」
擁護してくれる人が1人でも増えてくれたら……。
そんな打算的な面も確かにあった。
「(……いや)」
もしも認めてくれなくても構わない。
自分だけはいつまでもアンジュの味方なのだから。
「うー!」
どうしてだろうか、アンジュの笑顔を見ていれば。
「やっぱり、お前は……私の『天使』だ」
「……」
ぴたっとアンジュが動きを止める。
「アンジュ……異国の言葉で『天使』という意味だ。本当は……もっと別のタイミングで言いたかったんだけどな!」
「……」
「どうしても伝えたくなったんだ! 私がお前を……『天使』のように尊い存在だと……お前のことを大切に想っていると伝えたくて!」
「……ぅ」
振り向いたアンジェは、やっぱり笑っていた。
「だから! 何も心配するんじゃないぞ!」
「うーっ!」
夕日を背に、2人の影が重なった。
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