第13話 交流
「アンジュよ! 今日はここで訓練をするぞ!」
アンジュとシルヴィアがやってきたのは、いつもの壊した城壁前ではなく正式な騎士団訓練所。
今後アンジュが魔物化してしまった場合でも、すこしでも心証をよくした方がいいのではと言うことで連れて来てみたシルヴィア。
「う!」
「おうおう、元気な坊主だなぁ~!」
元気にシルヴィアに応じるアンジュ。
そんな彼らを迎え入れたのはキーファだった。
「キーファ隊長! 今日はよろしくお願いします!」
「うー!」
「おう! つっても、さすがに訓練の邪魔にならないように頼むぞ~」
幼い子どもが騎士団の訓練についていける訳はない。
もちろんそれは理解しているので、実際は場所だけ借りてあわよくば誰かと交流して……ということだった。
「ところで……セーラちゃんは?」
「今日は壊れた城壁の監視をお願いしています!」
「え? そんなこと……セーラちゃんは騎士団じゃないんだからさぁ~……」
「? そんなこと知っていますが?」
あ、これダメな奴だ。
たまにシルヴィアがポンコツになることがあることを知っているキーファ。
「(後で差し入れでも持って行ってやるか……)」
体よくセーラに会う口実を考え付いたキーファだった。
「ほぅ……こちらがシルヴィアさんのお子さんですか」
「うー!」
「お、あの時の坊主か! 元気になって良かったな!」
「う!」
代わる代わる声を掛けてくれる隊員たち。
どうやらアンジュが救出されたときにいたメンバーもいるようだった。
「よし! お兄さんと一緒に素振りでもしようや!」
「うっ!」
隊員と一緒に木剣を振り出すアンジュ。
シルヴィアに貰った宝物だ。
「おう! なかなか……うん、伸びしろの塊だな!」
「この年でこんだけ振れてれば……30年後にはいっぱしの剣士だぜ!」
「……俺たちもこの一生懸命さは見習うべきだ!」
暗に才能がないと言われ続けるアンジュ。
アンジュはそれに気付かずにより一層笑顔を深める。
「(こいつら……覚えてろよ……! いつか八つ裂きにしてやるっ!)」
シルヴィアは耐えていた。必死に、歯を食いしばって。
せっかくアンジュが他の人間と交流しているのだから、それを邪魔してはいけない、と。
「うーっ!」
「あれー? 訓練場からかわいい声が聞こえるよー!?」
ゆっくりゆっくり、アンジュなりに一生懸命に剣を振っていると突然にぎやかな声が聞こえて来た。
「あれ? シルヴィアさんじゃない?」
「ってことは……あそこにいる小っちゃい子が噂のアンジュくん?」
偶然通りかかった女性メンバー達がアンジュに気付いてしまった。
「……ぅぅ」
「(くっ……悔しいが……ここも我慢だっ!)」
その一瞬の隙が命取りだった。
「やぁん、照れちゃってかわいー!」
「シルヴィア様の後ろが安心するのかな~? かな~?」
急に現れた女性たちに驚き、シルヴィアの後ろに隠れたアンジュだったが、一瞬で引き戻される。
「お、お前たち……アンジュはだな……」
「うわぁ! お肌ツルツル~!」
「髪の毛もサラサラだよっ!」
「ほっぺもぷにぷにっ!」
「何だかいい匂い! はぁ~ずっと嗅いでいたいわぁ~!」
シルヴィアの制止も聞かずにアンジュをもみくちゃにする女子たち。
「うらやま……」
「くそっ……もうあの子に優しくするのはやめだっ!」
「はぁ~、やってらんねぇぜ!」
それを見て露骨に嫉妬する男性陣。
「まぁまぁ、どうぜすぐ興味なくなるからよぉ~」
キーファが取り持とうとするも――。
「隊長よ、知ってるかい? あんたが女性陣に影で何て言われているか」
「え? ちょっ……」
すごく気になるし期待しちゃうけど現実はそんなに甘くない、けどドキドキせずにはいられないキーファ。
「3Kおじさん、だぜ?」
「……」
団員の表情、言葉の響き。
どう考えても嫌な予感しかしない。
「胡散臭い、セリフが臭い、普通に臭い、の3K……酷いときには『3くさおじさん』って言われてぐべぇっ!?」
「死ね! 死ね! 死ね!」
ドロドロと怨嗟渦巻く男性陣とは対照的にアンジュを囲ってキャピキャピしている女性陣。
見かねたシルヴィアがようやく間に入る。
「お前らっ! いい加減に――」
「ぅぅ……」
近付いて来たシルヴィアの後ろに再び隠れ、ギュッと抱き着くアンジュ。
今度は離されないよう、必死で。
「きゃぁん! かわいいー!」
「あああっ! 可愛すぎるっ!」
「――えっ?」
周囲と同じように黄色い声を上げるシルヴィア。
この女性騎士団員たちは、かつてシルヴィアと同じ隊に所属していた。
その時のシルヴィアは一切の甘えたことを許さず、愛想も媚も全くない、いわば女版ファルシスそのものであった。
その彼女が今、デレデレとだらしのない顔をしていることに驚きを隠せない女性騎士団員たち。
「……」
「……あ、えっと……」
しばし固まる当事者たち。
「コホン。ア、アンジュが怖がっているだろう?」
「は、はい……すみません……」
先程のことをなかったことにする様子のシルヴィア。
しかし――。
「おねえちゃん……」
「――!?」
不安そうにシルヴィアを見上げるアンジュ。
まるで子犬のように、突然の出来事に震えながらシルヴィアを求める姿にシルヴィアの血管は決壊した。
「ぶばぁっ!」
「きゃぁっ! シルヴィア様!?」
そして盛大に鼻血を噴き出した。
「た、大変! 冗談じゃすまないくらい鼻血を出してるわ!」
「急いで医務室に!」
とんでもない量の鼻血を噴き出すシルヴィア。
「だ、だいじょうぶらから……」
「ダメですよ! アンジュちゃんは私たちに任せて治療してきてください!」
力及ばず、アンジュと引き離されてしまうシルヴィアだった。
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