40. 注意喚起と警告の為
昨日は朝から大変だった。
義理兄と休日を過ごしていたら酔った米田という男性に絡まれた。折角の休日を台無しにされた腹いせにサンドバッグにでもしてやろうかと思ったら義理兄を見て失禁しやがった。
私個人としては後、二、三発お見舞いしてやりたかったのに残念だ。
午後は高級なお店で夕食と思ったら、何と人気トップ歌手のシリウス・ライトが登場!
テレビや雑誌に載っている有名人に会えるなんて、と思っていたら生の彼女はとんでもない人物だった。脳ミソお花畑ちゃんで人の話しは通じないモンスターな不思議ちゃんだった。
終いには待ち伏せされ、連絡先教えるまで立ち塞がって動かないしで本当に大変だった。
自宅に帰ったら二人して自室に直行の後気絶する様に眠った。自宅に着いた途端、精神力が限界でベットに倒れたまま動けずにそのまま寝てしまったようだ。
なので、毎朝セットした携帯のアラームが鳴っても身体が重く起きれずに手探りで探しアラーム音を止めた。
「うげっ!!」
携帯の画面に驚いた。
昨日、登録したばかりのシリウス・ライトからのLINEが大量に受信。一旦、携帯を手放し現実逃避した。
今日は週末最後のお休み、身体を起こし朝の支度を済ませた。
「おはよ~・・・・・・」
遅れて義理兄も自室から欠伸をしながら出て来た。お腹をポリポリ掻きながらリビングの定位置に座って新聞を広げた。
「おはよー」
昨日の疲れが取れないのか顔色が悪い。
テレビを見ていると噂の君が姿を現した。
「ああ、彼女凄かったねぇ~」
半分笑いながら義理兄に話しを振ると態とらしくズズッと音を絶ててお茶を啜った。
今日もテレビ越しに輝いているシリウス・ライト、客観的に見ているだけなら彼女を応援出来なくもないが本物を知ってしまった以上、色眼鏡で彼女を見るコトは出来ない。
『ハロ、ハロー、おはよー皆、今日は重大なお話しを私からするね』
重大な話し・・・・・・新番組の告知か?
『実は昨日、私は"運命の出会い"をしちゃいました!』
キャハっ! と恥ずかしそうにする彼女を画面越しに目を細め義理兄の方をチラリ・・・・・・
『興奮してまだ気持ちが落ち着きません!』
義理兄は広げた新聞で顔を隠しながら器用にお茶を啜る。
『私は"白馬に乗った皇子さま"を見つけてしまいましたーーーっ!!』
キャァァーーーと、また恥ずかしそうに両手で顔を隠すポーズをながら彼女は喜んでいた。若干嘘臭い演技だと感じつつも、そこはアイドル、エンターテイナーを披露した。
"白馬の皇子さま"だって~と鼻で笑ってやると無言で朝食を口に運んでた。
『私がそっちに迎えに行っちゃいまーーーす!』
ブホッ!!
口の中に積めた朝食を勢いよく吐き、咳き込む義理兄、咳が止まらない。
ゴホッ! ゴホッ・・・・・・オエッ!!
え? 迎えに来るの? マジで?
なんて思いながらゴミ箱とティッシュを義理兄に渡した。朝から彼女の爆弾発言に周りにいるであろうスタッフの人達のどよめく声が聞こえた様な気がしたが義理兄がテレビの電源を切ってしまった。
「あ、ちょっと!」
あんなの見なくて良いと言われ二度とテレビの電源が付くコトは無かった。
「お前、今日は予定有るのか?」
「今日はね!」と答えてやった。
私も朝食を済ませ出掛ける準備を調えた。
よしっ!
「それじゃあ行ってきます」
自宅から歩き最寄り駅を目指した。
五分程待ち到着した電車に乗り込んだ。暫く電車に揺られ数分後、目的の駅に降り改札を出て町の方へ歩いた。今日の目的地は某地区の警察署刑事部だった。
何故、そんな所に用が有るかって?
昨日の酔っ払い米田の件についてクレームをとある人物に直接講義しようと足を運んだのだ。
受付けにいた人に呼び出すようお願いした。
「すみません、刑事部の栗山刑事をお願いします」
栗山刑事が慌てて出て来た。
「武藤さん!?」
直接来るとは思っていなかったと云わんばかりの表情をしていた。近くの喫茶店で話しをしようと言って案内された。
「私が今日、訪ねた理由は分かりますね?」
栗山刑事に本題を話した。
私が言わなくても分かっているだろう栗山刑事は少しうつ向き頷いた。
「米田さんの件だね?」
「あの人、何とかして貰えませんか!」
すまないと小さく謝罪した。
「自宅からつけて来て、一人の時を狙われたんですよ!」
また、すまないと謝罪した。
「計画的だし、酔った勢いで金を寄越せだとか、警察に私が人を殺したコトを伝えるだの訴えるだの言っていたんですよ!」
「米田さん、付き纒いまでしていたのか?!」
ちゃんと注意するからと何度も頭を下げた。
「しかし、米田さんも君に殴られたってーーー」
正当防衛ですが、何か? と言ってやった。
「あの米田って人、何とかした方が良いですよ」
「確かに酔って君に手を出そうとしたのは行き過ぎた行為だーーーだが・・・・・・」
「違います、そうじゃありません!」
私は栗山刑事が言おうとした先の言葉を阻んだ。
栗山刑事はキョトンとした顔で私を見た。
「そうじゃないとは?」
「今日、貴方を訪ねたのは注意喚起と警告する為です!」
「注意喚起と警告?」
栗山刑事は、どういう事なのか詳しく尋ねた。
私は深いタメ息をついてから答えた。
「どうもこうも有りませんよ、このままじゃあ、あの米田って人、危険ですよ!」
「危険って、何がだい?」
私は少し間を置いてから話し始めた。
「ーーーーーー、あの米田って人は目立ち過ぎた、近い内にーーー・・・・・・」
「な、何だい、近い内にって?」
私は声のトーンを落として言った。
「長年刑事をやっているなら分かるでしょ?」
真っ直ぐ栗山刑事を見て私はそう言ってやった。
私の表情を見て何かを察したのか栗山刑事が生唾をゴクリと飲んだ。
「米田って人だけじゃない、このままじゃあ他の人の身にもーーーーーー」
「他の人達の身も危険という事かい?!」
「ですから今日、態々注意喚起と警告をする為に貴方を訪ねに来たんですよ!」
私は栗山刑事からあの事故の関係者に警告するよう仲介人の役をお願いした。
「あの事件から手を引いて下さい栗山刑事、でないと・・・・・・」
三年前のあの事故に関する事、つまり事件の詳細について独自で行っていた捜査も辞めるという事になる。
「ーーーーーー、それは出来ないよ、ここまで来てーーーーーー・・・・・・」
定年を前に事故の被害者の為、刑事である自分に出来る事をして来たつもりだった。
三年前のあの事故の唯一の生存者である武藤蘭香が事件の詳細を語らないのなら私に出来る事は最後まで捜査を続ける事、只それだけだ。
「私は刑事だ、例え一人になっても捜査は続けるよ」
「ーーーーーーこれ以上、あの事件に関わるなら全員消されますよーーーーーー」
「なら教えて来れ、君は三年前のあの事故で何をーーーーーー」
栗山刑事が言い終える前に私は席を立ち上がった。
「どうなっても知りませんよ!」
それだけ言って私は栗山刑事に背を向け喫茶店を出た。
時間を遡り、その日の早朝に事件はおきた。
朝早く自宅のインターホンで目を覚ました米田、深酒をしたせいで朝から二日酔いで頭が回らず重い身体を動かしドアを開けた。
「誰だぁ?! 朝早くーーーーーーっ!?」
ドアの前にいたのは面識の無い人物だった。
「だ、誰だよアンタ!?」
それから数時間後に米田を訪ねて来た友人によって発見される事となった。
遺体としてーーーーーー・・・・・・