初夢
男の子が目を開けると、そこは雲の上でした。白い雲が、足元にフワフワと浮かんでいました。周りには木がまばらにあって、そのうちの一つはとても大きな木でした。男の子は、その木に、ここはどこか、と尋ねました。すると、木はそれに答えてくれました。
「ここは山の上だよ。とーっても大きい、雲より高い山の上」
「山のお名前はなんていうの?」
「ふじさんだよ」
「フジさん?」
「そう、富士山だよ」
「ありがとう、木さん。僕、ちょっと冒険してくる!」
そう言うと男の子は、木さんの元を離れて、冒険に出ました。
ズックズックと山道を登っていくと、木はどんどん無くなっていって、遂にはなくなってしまいました。そして、白い雪が現れてきました。
男の子は、雪で遊びました。わっしゃ、わっしゃ。ざっく、ざっく。ぺった、ぺった。ごっろ、ごっろ。大きな雪だるまを作っています。
大きな頭の雪玉を転がしていると、雪玉は転がり始めました。ころころころ。
男の子は追いかけます。とっことっこ。ダンダンダン。
男の子が夢中に走っていると、突然地面が無くなりました。崖だったのです。男の子は、もうダメかと思って、目を瞑りました。しかし、突然温かな、柔らかなものが肌に触れました。
男の子が目を開けると、それは鷹でした。
「助けてくれたの?」
鷹さんは頷きました。鷹さんは、富士山よりももっと高い雲の上の国へ連れて行ってくれるそうです。
鷹さんは大きく翼を広げて、上へとグーンッと昇っていきました。
雲を突き抜けて、ボウっと出ると、そこには大きな王国がありました。白ーい白ーい、ふわふわの、雲のようなお城がありました。
そこは茄子が収める国でした。王様からみんな、全員茄子です。
鷹さんは王様の友達のようで、男の子を王様のお城に連れて行ってくれました。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。ここは雲の国。茄子の王国じゃ」
大きな茄子の王様は、真っ黒なお髭を生やしていました。
王様は、美味しい料理や、扇の舞で男の子をもてなしてくれました。
それから、男の子と王様は仲良くなりました。男の子は、王様の部屋へ招かれました。王様は、部屋の色々なところを見せてくれましたが、一つだけ、ベッドの裏のクローゼットだけは見てはいけないと言われました。
しばらく王様と遊んでいましたが、王様は仕事があると言って、部屋を出て行ってしまいました。
男の子はしばらく1人で遊んでいましたが、遊んでいたボールが、ベッドの裏のクローゼットの前に転がっていきました。クローゼットの扉は、ボールが当たった衝撃で、少し開いていました。
『ほら、開けちゃいなよー。大丈夫だって。今は王様いないし、ちょっとだけだろー?』
『ダメよ!王様と開けちゃダメって約束したでしょ!』
男の子の中の天使と悪魔が争っています。しかし…
『へっへー!オイラの勝ちだな、天使!』
男の子は、クローゼットを開けてしまいました。するとその瞬間、クローゼットの中から煙が出てきました。煙が晴れると、そこには大量のココアシガレットがありました。しかしそこへ、王様が帰ってきてしまいました。
王様はとっても怒りました。
「私の秘密を知ったな!私は…王様としての威厳を保つため、甘いもの好きを隠しておるのだ。その秘密をよくもー!」
男の子は逃げました。逃げて逃げて逃げました。しかし、王様は大量の兵士をよこして、男の子を追ってきます。
とうとう男の子は、雲の崖に追い込まれました。もうダメかと思い、目を瞑ろうとしたその瞬間、男の子の前に大きな影が現れました。両目を瞑り、刀を持ったその男は、
「わしに任せい」
そう言うと、その男は次々と兵士たちを薙ぎ倒していきます。遂に兵士を倒しきり、男の子は助かりました。しかし、安心した拍子に足を滑らして、男の子は空中に放り出されました。
もうダメかと思われたその時、知っている感触が伝わりました。あの鷹さんが助けてくれたのです。鷹さんはそのまま、光のある方へ男の子を連れて行ってくれました。
「ねぇねぇお母さん、今日僕、夢を見たんだ!」
「あら、初夢ね。どんな夢を見たの?」
「えーっとね…」
男の子は、昨日見た夢を、お母さんに話しました。
「あら、良い一年になりそうね。一富士二鷹三茄子…」
一富士二鷹三茄子には、続きがあるって知っていましたか?「四扇五煙草六座頭」と言います。扇は末広がりの形であることから、商売繁盛や子宝を表し、煙草は煙が上に昇っていくことから、幸運や運気の上昇などの意味があるそうです。また、座頭は、琵琶法師の座に所属する盲目の演奏家のことで、剃髪していることから、「毛がない」→「怪我ない」という、家内安全の象徴だったそうです。
今回は一富士二鷹三茄子の他に、先ほど紹介した三つを入れて、新年らしい作品を書きました。これで少しでも、新年からハッピーな気分になってくれたら幸いです。