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特に目標も設定せずにここまでダラダラと攻略してきたが、少し脇道に逸れるのも楽しいかもしれない。
「ドラゴン、一目見に行ってみるとしよう」
最初の街には、ワープポイントを使って移動する。ワープポイントというのは、一度来たことがある街やキャンプの間を行き来できる便利な装置である。
少なくないお金がかかるのと、そもそも来た道を戻る必要がなかったので今まで使う機会はなかったが。
さて、一瞬で最初の街に到着した。まともに滞在していなかったからどこに何があるかわからないな。用があるのは裏の山だけだし、それでも問題ないか。
一度街から出て、外壁の周りを半周して山へ向かう。
「こうやって見ると山というより崖だな」
麓に着くと、親切にもこれから山に登る人に向けて説明をしている人たちがいた。
曰く、どこから山に登っても、一定のラインを超えるとドラゴンに襲われるというのが検証班の出した結論らしい。また山登りに必要なのは気力だけだそうだ。急な崖を登り続けてもSTはなくならないし、寒さでHPが減ることもない。
ただ、いずれ空腹度や寒冷関連の状態異常が追加される可能性があるため、登るなら今だ。との警告もしていた。
「一種の観光スポットだな」
「本当ですよね。人混みは苦手なのですが」
振り返ると女性がにこにこしながらこちらを見ていた。
「時短、したくありません? 私、空を飛べるんですよ。運びましょうか? 一回五千で手を打ってます」
「ああ、もしかしてブログの?」
「あら、私ったらそんなに有名になっちゃったのかしら。そうね。ファンということだし、三千でいいわよ」
「……それでお願いする」
よくわからないうちに値引きに成功したらしい。彼女は私の服を掴んで、翼をはためかせた。私の足はゆっくりと大地から離れる。
「思ったより怖いな」
思ったより揺れる為落ちないか不安になる。
「だいたい皆同じことを言うわね。絶対離さないんだから安心していいのに」
ブログを見た、と言ってからキャラが変わりすぎではないだろうか。
「はい、ついたわよ。ここから五歩も進めばドラゴンが出るからね。それからフレンド申請しといたから。光栄に思いなさい。これからもブログよろしくね〜」
一方的に言うだけ言って去っていったな。フレンド申請は……損はないから受理しておくか。
「準備の時間だ」
毒餌を食べてHPを減らし身代わりを二つ生成、減ったHPはポーションで回復する。再び毒餌を食べて、次の身代わりの準備をしておく。
少し進むと、どこからともなくドラゴンが現れた。
「シッ」
よし、知っていればなんとかなるな。ほとんど目で追えなくても、攻撃してくる場所がわかれば受け流せる。通り過ぎたドラゴンの背中に魔法を連打。
「あれ? 意外と削れるな」
二撃目も受け流す。本来なら武器の耐久が目も当てられないほど減っているのだろうが、受け流すのに使っているのは初期装備のナイフ。耐久は無限だ。
爪での攻撃では倒せないと悟ったのか、次の行動はブレスだった。
身代わりは途中で増えた一つ含めて、三枚全て割れてしまったが、強力な攻撃だった分隙も大きいらしい。大量の魔法を打ち込むのと同時にナイフで腕を刺しHPを減らす。
STを回復するのと同時に保険の身代わりを生成しておく。
ブレス来るな。ブレス来るな。ブレス来るな。
「よし! ってフェイント!?」
こちらに向かってくるのを確認してすぐに爪を受け流す準備をしていたのだが、尻尾で攻撃してくるとは思わなかった。
「身代わり張っててよかったな」
魔法を放ちながらダッシュで距離を取る。次、攻撃を受け流せなかったら負けだ。
ここは……魔法を撃ち続ける!
突進してくるドラゴンのHPは残り僅か。ドラゴンが爪を振りかぶると同時にSTが0になる。
「まだっ!」
投げたナイフがドラゴンの目に突き刺さる。
「勝ったか……って、無限沸きかよ」
2体目のドラゴンを目にし、生還を諦めた俺のHPを毒餌のダメージが削りきった。
最初の街のワープポイントである噴水前でリスポーン。それに気づいたのは宿を見つけて金を出したときだった。
「竜の逆鱗?」
あのドラゴン、ドロップまで設定されてるのか。にしても素材アイテムが出るとは……。とりあえず今日は疲れた。確認は次ログインしたときにしよう。