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「よお。あんた、ソロか?」
再びログインして、テントから出ると唐突に声を掛けられた。
「ああ、確かにソロでここまで来たな」
「お、そりゃ良かった。俺はこのキャンプまでソロで来たやつを誘っててな。この時間にここまでソロで来れるってことはPSが高いってことだろ? 一緒にパーティ組まねぇか?」
「すまないが、ソロの方が好きなんだ」
「ま、そりゃそうだよな。それじゃあ、PvPして決めねぇか? 俺が勝ったら一時的なパーティを組む。あんたが勝ったら……何がいい?」
なかなか強引なやつのようだが、同時に面白いやつでもあるな。
「オリジナルスキル、どんなの作ったか教えてくれ」
「いいぜぇ。最後まででいいか?」
「それでいい」
デスマッチというのは、どちらかのHPが0になるまで続く形式であり、デスペナもなくなるので遠慮せず戦うことができる。
PvP申請が来たので受理する。こいつの名前はカイというらしい。
システムにより一定距離離され、同時に円柱状の結界が張られる。この円から出ても負けなのだそうだ。
「武器は? 初期装備のナイフじゃないだろう」
「俺は魔術師だぞ」
「まじかよ」
カウントが0になると同時にスパーク。
「避けるか」
「余裕だぜ」
上段から振り下ろされる剣をナイフでそらし、もう一度スパーク。カイはなんとか避けるが、体勢を崩すことができた。
今までほとんど使っていなかった土魔法の最初の魔法、ストーンウォールを使い、その持続の長さで動きを制限。すぐさまナイフを投げる。
「チッ」
「読めてるぞ」
避けるだろう方向に放っていたスパークがヒットし、カイのHPゲージはなくなった。
「強ぇなあんた。なんもできなかったぜ」
「最初のスパークを無理に避けた時に、防御系に振ってないとわかっただけだ。スパークを耐えて近づかれたらこっちが終わってた」
「今の敵の強さじゃ防御系は振らねぇよなぁ。約束だ。オリジナルスキルについて教えるぜ。はぁ、これで勝つつもりだったんだがなぁ。俺のオリジナルスキルは予知だ」
「ほう」
「効果はそのままだな。自分に向かって放たれた攻撃がどういう軌道を辿るか見えるってやつだ。あんたの詰将棋みたいなのはどうしようもねぇ」
「面白いな」
「代償の部分が魔術師には向いてねぇと思うぜ。通常スキル剣術によって使える技全ての封印だ」
「それをPSで補うというわけか。確かに魔術師にはできないな」
「だろ? それじゃ俺は行くぜ。他のやつにも声かけんだ」
「いや、気が変わった。一時的にパーティに参加する」
「マジか!? 俺抜いてあんたで二人目だ。俺はあと一人探すから、もう一人と会っといてくれ。」
「わかった。どこに行けばいい?」
「キャンプの入口に行ってくれ」
言われた通りに入口に行くと、人の良さそうな男がこちらに気づいて手を振ってきた。
「あなたがタクさん? 」
「そうだ」
「よかった。僕はハル。とりあえずフレンド登録しましょう」
「わかった」
フレンド登録をすると、チャットが使えるようになる。さらにフレンド登録はどちらからでも解除できるので、基本やっておいて損はないそうだ。
そういえばカイとはし忘れていたな。
「カイ、強引だったでしょう」
「まあ、そうだったな」
「あはは、すみません。でもいいやつではあるんで、仲良くしてやってください」
リアルでの関係があるのだろうな。揃って第一陣に入れるとは運がいい。
「あ、僕とカイは幼馴染です。と言っても、ここまではソロで来ましたよ」
「なんでわざわざ……」
「カイの方はβテスターでして、ここで人を集めようって言ってたんです。それで、俺らだけソロじゃなかったらおかしいだろ、って」
「なるほど……」
やはりカイはそういう性格らしい。
「将来的には最強のクランを作りたいそうですよ」
「すまないが、そこまでは付き合えないぞ」
「全然気にしないでいいですよ。一応第二陣でもう一人の幼馴染が入ってくる予定なんで。なのであなたかもう一人のどっちかが残ってくれたらいいな、程度です。二人でもなんとかなるでしょうしね」
「おーい。もう一人見つけて来たぞ〜」
「あ、きたきた」
話している間にカイがもう一人を見つけてようだ。
「改めて自己紹介だ。俺はカイ。武器は片手剣」
「ムサシです。武器は刀を使う予定です」
「僕はハル。両手剣を使います」
「魔術師のタクだ。光と土の魔法を使う」
「よし。あと、フレンド登録してないやつらはしとけよ」
「カイとしてないぞ」
「あ、すまん」
フレンド登録を終え、ついに森に入る。
「いや、俺いらなくないか?」
敵という敵を全て前衛の三人が倒してしまう。
「いや十分サポートしてくれてるでしょ」
「ソロでやってるときより格段に楽だぞ」
「それは当たり前です」
あっと言う間にボスのいるエリアまでやってきた。ボスは大きなゴリラだった。
当たったら痛そうなパンチを放つが、こちらは初日にソロでキャンプまでやってきたメンバー。大振りな攻撃はかすりもしない。
私はというと後ろに立ってひたすら魔法を使っていた。他3人の火力も高いため、ヘイトがこちらに向かないのだ。
そうしてゴリラはなんの苦もなく沈められた。
「一時パーティはここで一旦終了だぜ。できればこのメンツでそのままやっていけたらと思うが、どうだ?」
「すまないが、抜けさせてもらう」
「ま、しゃあねぇよなぁ」
「僕はこのまま参加するです」
「頑張ってくださいね。タクさん」
「ああ、そちらも頑張ってくれ」
「じゃあな!」
……思っていたよりすっきり別れられたな。
ここからはまたソロだ。とりあえずゴリラを一人で倒せるようになってから先に進もう。