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退屈だった。マキノとカタカナで調べれば無表情で表彰台の一番上に立つ俺の写真がいくらでも出てくる。
思考速度が人より早いが故に大抵のことはできてしまう。だから何をしてもつまらない。
そんな折に見つけたのがこのゲーム。Countless Choices Onlineだ。
その広告には実に惹かれる言葉があった。
「無限の選択肢、ね。楽しみだ」
このゲームは俺が対応できないほどの選択肢を提示してくれるのだろうか。
久しく感じていなかった興奮という感情はとても新鮮だった。
βテスターとなるための抽選には外れてしまったが、第一陣として参加するための抽選には当選することができた。
そして今日が待ちに待った本サービス開始の日。時間になると同時にログインする。
「名前はタク。アバターは用意してあるものを使う」
キャラネームは普段使わない下の名前をそのまま使う。アバターに関しては髪の長さや色、それに目の色まで変えれば印象は十分変わるという理由でリアルの容姿を少しいじったものだ。
次にスキルの設定。スキルの枠は最初は五つ。
まずは通常スキルと呼ばれている、予め用意されているスキルから最低三つ選ぶ。残りの枠は通常スキルで埋めるもよし、自分で作るスキルであるオリジナルスキルを入れるもよしだ。
この枠はキャラレベルが十の倍数になったときに一つ増えるそうだ。
また通常スキルはスキルレベルが存在し、徐々に強くなっていくシステムであるため、下手なオリジナルスキルよりも通常スキルの方が強いなんてことも多々あるらしい。
実際に、通常スキルだけしか取得せずに、βテストの闘技大会の上位に食い込んだプレイヤーもいるそうだ。
そして一度取得したスキルは再選択できないため注意が必要だ。
とはいえ通常スキルに関しては事前に情報を仕入れて考えていたから選ぶものは決まっている。
「土魔法、光魔法、応急手当の三つ」
魔法はかなり種類があったが、妨害に長ける土と速度に長ける光を選んだ。
応急手当はソロ御用達、HPが自動回復するというスキルだ。
「チュートリアルはスキップ」
インターネットで調べればβテストのときのチュートリアルなんてすぐに出てくるし、公式サイトに載っていた事前説明も読んでおいたのでおそらく問題はないだろう。
「これがフルダイブ……」
最初の町に降り立つと、視界のすみにHPとSTのゲージが表示される。
HPがなくなったら死ぬ。STを消費してスキルを使用できる。
HPは自動で回復しないが、STは回復する。
初期値はどちらも100で、レベルが一つ上がるごとにこれまたどちらも10上がる。
ルールはこれだけ、実に簡潔である。
確認も終えて、早速フィールドに出る。全体では早い部類に入るだろう。ちなみにフィールドは始まりの草原というそうだ。
草原にはたくさんのスライムがいた。障害物がほとんどないため、嫌でも数体は目に入る。
一番近いスライムに近づいて光魔法によって覚えたスパークを使う。口に出さなくても、スパークを使いおうと考えるだけだから楽だ。
なかなかの速度で魔法は飛んでいき、スライムにあたって弾けた。しかしレベル1の攻撃ではさすがに一撃で仕留めることは叶わない。
ちょうどいい。一度攻撃を受けておこう。βテストのときの掲示板によると、弱い攻撃でもそこそこ痛いらしい。これに関しては習うより慣れろ、というやつだろう。
しばらく待っていると、スライムが突進してくる。
「そこそこ痛いな」
素肌にドッジボールがあたったくらいに感じた。自分のレベルが1とはいえ、最弱のスライムでこの痛さなら多くのβテスターが痛覚遮断率を上げろと言うのも頷ける。
ただ、痛覚遮断率が低くないと他の感覚も鈍るのだそうだ。さらに言えば緊張感が出ない。それはよろしくない。
「痛覚遮断率はこの先も0%だな」
考えもまとめたところで二回目のスパークを撃ちスライムのHPを削り切る。経験値を獲得し、レベルが上がったという通知が来る。
すっかり忘れていたがSPを貰った。SPは最初から10持っていて、キャラレベルが1上がるごとに10貰える。
つまりキャラレベル×10が合計ということなのだが、STR、INTVITMNDDEXの五つに振れる。
RPGなどでよく見るAGIは存在せず、DEXは生産スキルの効果上昇の他、スキルによる行動アシスト機能がより強くなるらしい。
この行動アシスト機能というのは剣の振り方なんて全く知らなくてもそれっぽく振ればまともな斬撃になる、というものである。
魔法に関しても着弾点が意図に反して目標からズレている場合に自動で修整される等の利点がある。
この中から自分に合ったものを選んで上げていくのだが……
「とりあえずINTに20全部をつっ込んでおこう」
基本離れたところから攻撃するのだから防御系は後々で構わないだろう。
始まりの草原の奥まで来るとスライム以外の魔物も目につき始めた。角の生えた兎に、狼のような魔物。
戦闘自体は相変わらず遠くからスパークを何度か撃つだけだ。しかし問題がある。
「ST不足は魔法型の宿命か」
STを回復できるスキルは通常スキルの中にはない。ST回復ポーションというものも存在はするが、連続で使うことはできない。
よってオリジナルスキルを作るしかないのだが、オリジナルスキルはそのままその人の個性となる。慎重に考えなければならない。
STのことは一旦先送りにして、レベルも3になったし敵を無視して町まで帰ろう。落ち着いたところで掲示板等も確認したい。
できるだけ避けたとはいえ何回かの戦闘はあったが、行きよりは遥かに早く町まで戻ってくることができた。さて、先送りにしていたSTの問題を考えなければいけない。情報収集だ。掲示板でそれっぽいスレッドを覗いてみよう。
応急手当の効果を変更
初期スキルの数を変更