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「これを……任せてくれるのか?」
今は以前杖を作ってもらった武器屋に来ている。逆鱗を加工してもらうためだ。
「安心しろ。できた杖を使ってもっと強いやつを狩るから」
あの後、ログアウトしている間に緊急でアップデートが入ったそうだ。一部モンスターのステータスに発見された不具合を修正とのことだったが、十中八九あのドラゴンのことだろう。
倒せなくなったのか、ドロップに修正が入ったのかはわからない。しかし逆鱗について運営から連絡が来たりはしていないし、おそらく使用していいのだろう。
「わかった。作らせてもらう。ただ、杖を作るといっても鱗だけで作れる訳でもない。鱗以外の部分の材質はなにがいい?」
「材質で何が変わるんだ?」
「木材を使えば魔法の威力が上がるし、金属を使えば近接用の武器として使えたりもするな」
一長一短ということか。トレントの木材で作った杖も耐久は全然大丈夫だし、無茶な使い方をするわけでもなければ木材が特段耐久に劣る訳では無いのだと思う。
「木材で頼む」
「わかった。ここらへんで見かける木材の中じゃ、やっぱトレントのやつが一番優れているな。手持ちにあるか? ないならちょうど仕入れてきたやつ使うが」
「持ってないな」
「あいよ。じゃあ作ってくる」
店主は前回同様奥に入っていき、少しして戻ってきた。
「完成だ。今まで作った武器の中で最高の出来だぜ」
前回の杖より一回り大きいそれの上端は膨らんでいて、そこに嵌め込まれた逆鱗が鈍く光っている。
「ありがとう。大事に使わせてもらう」
「おう、適当に使っても大丈夫だぜ。武器特性、見てみろよ」
そこに書いてあった効果は三つ。不壊、成長、逆鱗だ。
不壊の効果は耐久が無限になるわけではなく、耐久がなくなっても壊れなくなっただけのようである。
成長は使用者のこの武器の使い込みによって強化されていくという特性で、所持者が固定されるという副次効果もあるらしい。
これだけでも十分すごいのだが、最後の逆鱗は、逆鱗というスキルを使用可能という凄まじいものだった。まさか武器でスキルが増やせるとは……。
肝心の逆鱗スキルの効果は、HPが10%以下のとき与ダメージ二倍というものである。相性が良すぎて、使用者に合わせて効果が生成された可能性を疑うレベルだ。
「すごいな……。この杖、名前はあるのか?」
「逆鱗の杖【境の竜】って決まってた。」
「格好いいな。それで、あー……値段のことを忘れていたのだが」
「俺もあんちゃんに頼まれて舞い上がっちまってたなぁ。でも、こんだけの経験積めることなんてそうそうねぇし、普通のトレントの木材使った杖と同じ値段で構わんぞ」
「さすがに安すぎないか?」
「俺を成長させてくれたお礼代ってところだ。絶対値上げしねぇぞ」
「……しょうがないな、代金だ」
「毎度あり!」
店主と別れた俺は最初の街裏の雪山に来ていた。今回はブログの彼女はいないようだ。別の人を運んでいるのかもしれないな。
そこそこの時間はかかるそうだが、正規ルートで登ろう。
「やはり精神的に疲れるな。前と同じに、一応の準備をして……」
準備を終え歩きだす。ドラゴンが現れ爪を使った攻撃をしてくる。
受け流そうとするが……重い! 失敗して身代わりが一つなくなってしまった。
これは無理だな。明らかに強くなっている。魔法を連打するが、逆鱗の効果でダメージが二倍となっているはずなのにまるでダメージが入らない。
身代わりのおかげで延命はできたが、ドラゴンのHPは数ドット減ったかどうかというぐらいしか削れずに俺のHPは尽きてしまった。
最初の街の噴水でリスポーン。デスペナルティが本格的につくのはレベルが10になってからなのでステータスの減少は軽めだが、無理して攻略に行くこともないな。ログアウトして休憩するか。