隠された真実
女性と話すのは苦手だ。特に相手が何を考えているのか分からないような人は。俺は相手の目を見て、その中に感じる揺らぎから彼女の心の動揺を読み取ることしかできなかった。
「俺には近づかない方がいい」
「なぜ」
「俺はこうなる前、化け物と呼ばれて育った」
「なぜ」
俺は手を揉んで、今の姿の方が、精神と体との調律がとれていることの確信を得る。
「俺は、何でも食べたんだ」
「じゃあお友達も?」
「何でもだよ。ぼくの両親はね、ぼくを叱るとき必ず山に置いて行った。車も入れないような山の中、お腹が空いて食べられない物でも口にしなければならなかった。小学校に入った時、俺は皆と違うことを知った」
女の目は光を失い、出口の無い洞窟のように薄暗く、まるで穴のように無機質な物へと変わっていった。
「もうすぐ神様が迎えにいらっしゃいます」
「ん?」
「貴方は禁断。あってはならない物。誰もが欲しがります」
「前にも聞いたよ」
女の顔は笑っていなかった。残念ながら俺にはその顔が恐怖なのか、それとも冗談を言っているのか分からなかった。まるで仮面のようなその表情は、俺にとって多数の人間を見る時に感じるそれだった。何を考えているのかまるで分らない。不気味で残酷で優しい人殺しをする人間という一匹の野獣だ。
一瞬、女の喉のあたりが縦に割れて左右に開いたように見えた。
しかしそれは女の波打った髪の毛が女の深いため息で揺れただけ。
「あの方はすぐ近くにいらっしゃる。彼は気が付いた。心配で心配でならないのです。自らの子を抱きたいと思うのは不思議な事ではありませんわ」
怖かった。女を突き飛ばし廊下に駆け出ると、メイドさん達が列になって並び、不気味な仮面のような表情で俺を見、寒くも無いというのに白い息を吐いていた。
一匹の豚が頭を潰されて耳を引っ張られ、ドアの向こうに引きずられて行く。
「幸せの始まりです。さあ、手を出して」
この家はどこかおかしい。
素性の分からない奴隷達。
壁に埋められた罪人たち。
極端に少ない窓。
まるで何かを隠すために作られた牢屋じゃないか。