大人のキスは鉄の味
「あんた何の薬やってんの?」
「あ?」
「やってんでしょ薬。少し私に分けてよ」
「なあ、もう夜も遅いんだ。早く寝ろよ。俺は薬なんてやってない」
「あんた薬やってないであんななの!? 病気ね。生まれつきでアッパーとか人生最高でしょうね。羨ましいわ」
「悪いこと言わねーから薬止めときなよお嬢さん。長生きできないぞ。俺だってかーってなるとき気持ち良くなるから長生きできないんだよ」
「いいねぇそれ。摑まんないじゃん。あんたさ、本当の歳違うでしょ。じゃなきゃ女の前に立って盾になるなんてできやしない。そんな男いないんだよ。ううん。年をたってもできないやつばっかり。みんな口ばっかりでそんなことができる男は絵本の中にしかいないんだよ。それに一人称『ぼく』と『俺』ってグチャクチャじゃん。今どっちがしゃべってるのさ」
「……どうでもいいだろうが。早く寝ろよ」
「あんた野良犬みたいなにおいするのね」
「うるせえ」
「でも素敵だったわぁ。近年まれにみる好青年だと思ったら、いきなり奴隷のために命張るとか面白すぎ。でも付き合ってないんでしょ? 私濡れちゃったわ。健気にお姫様を守っているんですね」
あーーーめんどくせぇわ。明日、というかもう今日なのだが早く帰ってほしい。それなのにとととと歩いてきて耳元に口を寄せてくるのだった。
「あーいや!こないで!!」
「あんたさ!面白い!!逃がすわけないでしょ!普通子供なら武器を手にしたら周りの人間みんな殺すでしょ!それなのに逃げたの何で!? ねえ何で?」
めんどくせえやこの人。あああ。俺にだって話せないことはあるのに。
肩をゆするな眠れない。顔は良いだけに残念だな……もう、好きにしてくれやという気分になってくる。
「ねえ、薬物常習者のつばには麻薬成分が溶けだしてるって聞くけどあなたはどうなの?」
「俺は26年間生きてたけどそんな話は聞いたことは無いね!」
「ほらやっぱり隠してた。あなた10歳じゃないのね」
物凄く綺麗な顔がすぐそばにあって、お化粧の匂いがした。うちのメイドさん達からは感じられないその匂いは、大人の女性を思わせたし、どこかまだ見たことの無い母親を思わせた。
だからだろう。油断してキスをされた。
ついでに口の中を舐められて、ぬたぬたと蠢くその触手の様な物に反射的にガブリと噛みついた。
女は口から血を流して笑っていた。
「思ってたのと違う。甘いのね」
誰か。誰か助けてくれ。