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 お腹減ったなぁと呟くと、メイドさんたちが数人廊下から出てきて簡単な食事を用意しようとした。


 現在深夜。完全なオーバーワークなので、ホワイト企業であるところの我が家はメイドさんを座らせて俺がフライパンをふるって料理などこさえた。


 久しぶりに料理などするので、調味料は指を突っ込んで舐めるなどして判別し、鶏肉の味噌と砂糖であまじょっぱく焼いたのと、めかぶっぽいなにかのあえ物と、戸棚の奥の方から出てきたツボに入った塩辛的なものを皿に盛り付けて振る舞った。


 とくに塩辛がうまい。トロトロとした灰色の汁に目が覚めるほどの塩が混ぜてあってこの上なかった。パン食がぐいぐいと進む。これで白米でもあれば最高なのだがな……。と思わずにはいれない。


 鶏肉の方も本当にうまくて、メイドさんたちがちょっと取り合いをしていたのが面白かった。みんな黙々と、皿に穴でも開けるかのごとく食べるので可笑しいなと思った。もうちょっと会話なりあっても良いと思うのだが。ああ。やっぱり米がほしいな。


 食後のデザートに兄貴の隠しているクッキーと紅茶などをわずかばかり失敬して皿を洗っている間に振る舞うなどした。

 俺は人の心が分からんので、こういうことでコミュニケーションをとり、好感度をあげていかねばならないのだった。ああ、世渡りが上手なのが羨ましい。


 ケモ度の高いメイドさんはクッキーを食べたあとの手を舐めたり噛んだりして徹底的に掃除するのだった。おそらく獲物に匂いが気がつかれないように食べかすを残さないようにしているものと思われる。結構はげしめに噛むので肉球がとれるのではと思ったほどだった。


 食ったあとやることもないので手空きから就寝となる。だが、体の小さい俺はその列に紛れ込んで思惑通りにオーロラ姫の寝具に潜り込んだ。


 明かりのほとんどない室内は既に数人の寝息が聞こえている。明らかにプライベートのスペースなので気が引ける。まるで、修学旅行の日に女子の部屋に忍び込んだみたいだ。

 他人の匂いのする布団というのはなんだか新鮮で、どこか心がぽよぽよとする。このまま抜きでて空でも飛んでしまいそう。


 布団の奥の方にすりすりと進むと、足が柔らかい肉に当たった。


「ぼっちゃん」

「はい。ごめんなさい」

 

 そそくさと部屋を出て自分の部屋に帰る。

 くふぅ。中々に難しいものだ。とくに俺は人との距離感が分からないタイプなので気を付けなければならない。人がなに考えているか分からないから簡単に入ってほしくないところに入ってしまうのだった。肉体的にも、精神的にも。


 真っ暗な廊下は俺の人生みたいだなと思う。一人ぼっち、お先真っ暗。お先真っ暗というのはこれから何が起きるか分からないと言う意味で最高の状態だと言っていた歌手は元気だろうか。


 ふと目線を感じる。目線と言うのは俺にとって尖っているような感じがして、体にそれが突き刺さるような感覚がある。それは暗闇から延びるようにして姿を表した。まだ形の定まらない肉体はゆっくりと水滴のように手首を伝い、床に垂れている。その水滴から鉄臭さが溢れたために、食事後なのだろうと思う。


 彼は吸血鬼だ。俺たちが豚や牛を食べるように彼らは生きた生き物の血を啜る。


 引き締まった肉体は、服を着ていてもその美しい形状をアピールし、彼が腕を動かすたび、濡れたようなうっとりとする光沢を帯びたシルクのシャツが揺れる。


「客人が表に来たようだ。どうするかね」

「俺に?」

「そうです」

「会いましょう」



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― 新着の感想 ―
[一言] 人の心が分からなくとも、とっている行動自体は正解を引く辺り、中々の主人公。 吸血鬼さんは何処で食事をして来たのやら、お城の中の勢力を丸々食べてもらいたい……若しくは敵の国全部。
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