豹変
あんまり自分が血生臭いので、自分に魔法を使ってみることにした。別に深くは考えてはいない。ただ、思ったのだ。魔法使って手がぐちゃくぢゃになるなら、綺麗になるために使ったらどうなるか。
イメージは赤ん坊のように柔らかく、茹で玉子のように張りのある肌だ。
指先から零れた光は腕全体包み、そして脈打つように瞬いた。
瞬間、強烈な頭痛。足からしたの感覚がなくなり、思わず膝に手を付くと、頭の中の血が床にぶちまけられるような感覚に陥る。
気持ち悪い気持ち悪い!!背筋にゾクゾクと悪寒がある。大勢の手が、体をなで回すような感覚。指が2mも延びて床に突き刺さる感覚。
体が脈打ち、風船のように膨らむ感覚。体験したことがないのに、それがそれだとわかる不気味。
耳元で女の声がした。
「……」なんといっているのかわからない。ただ、耳元でざらざらと変声機を通したような声が残る。
おええ。気持ち悪い。
すっと頭がさえた。まるでさっきのは嘘みたいに。頭を振ると、暖簾のように長い髪の毛が目をおおう。掴んでみるとそれは自分の髪だと分かった。引っ張ったら痛かったからだ。
まだ力の入らない足で無理矢理立つと、その高すぎる視界に目を回した。
身長が伸びていた。160後半といったところだろうか。俺は、目を白黒させながら外を目指した。
壁についた手は異様に線が細かった。指が蜘蛛の足のようだ。
「うわっ!」
グーを握っても異様に長い指は変わらなかった。中指がペンみたいに細い。その指の先にドングリみたいな黒い爪が付いていた。
「誰かいない?」
俺は、見た目がすごく変わっていることが怖くて部屋のドアを盾のようにしながら体を隠して廊下を見ていた。
ちょうどオーロラが薬の入った箱を持ってツカツカと歩いてきた。
「あら、どなた? どこから入ったの?」
そう言いながら俺のことをうかがってきた。美しい藍色の目が、爪先から頭のてっぺんまで見てにっこりと笑った。俺だと気がつかないほど変わっていたのだ。
「僕がわからないのかい?」俺がオーロラの袖を握って寂しそうな顔をするとやっと合点がいってようで彼女は笑った。
「変身する魔法も覚えたのですか?」
「そうかもね」僕は笑った。
「戻り方が分からないんだ」
「実際のところ私はまだあなたをぼっちゃんだと信じたわけではありませんから」巨大な膨らみのある胸を張ってオーロラは凄んだ。
「オーロラの首には蛇に噛まれたみたいな黒子があるよね」
「まあ!」
オーロラは僕の今の姿を教えてくれた。
ウェーブのかかった黒髪は太ももの近くまであって、目は一年に一度見れるかどうかの夕日の赤、唇は病的な黒だといった。
顔は食べてしまいたいほど可愛いと。女の子みたいなのだそうだ。
オーロラはまだ半信半疑そうだったが、優しく顔を撫でてくれた。