添い寝
蝋燭の薄明かりの下でトントンとノックした。
中からは短く『入れ』と言葉があってゆっくりと扉を開ける。中では狼のような大きな耳と首もとまでふさふさの毛に包まれた女性が新入りに仕事を教えている所だった。
どうやら風呂の洗い方を教えているらしい。
「すまんちょっと待ってくれ」
「はい」
お部屋は以外にもすごく良い匂いがするんだなぁ。それに彼女の生活感と言うか、実際に生きているような感じが部屋の隅々から感じられる。
例えば、二段ベッドの上にロープ出掛けられた洗濯物は彼女の下着であった。それは目も冴えるような赤色で、美しいレースの刺繍ものだった。俺は子供のようにどぎまぎとしてしまう。見てはいけないとは分かっているが、つい、見てしまうような感じ。
それに気がついたお姉さんは少し恥ずかしそうにカーテンを閉めて隠した。
まだ小さいメイドさんの肩にてを回し、
「じゃあ、明日やってみて。できなかったりわからないことがあったら必ず聞くこと。なにも盗むなよ」
返事をする間もなく少女は部屋を追い出される。
廊下を歩いて帰る様を確認して、獣の太く、鋭い爪が生えた指がドアをゆっくりとしめた。ドアノブにグルグルとタオルを巻き縛り付けて開かないようにした上で彼女は笑顔で振り返る。
ゴクリ。どこからともなく生唾を飲む音がする。
嘘っぱちの笑顔。本当はひどいことをしたいんだ。
「ね、ごほうびってなにすれば良いのかな? 僕わかんないや」
ゆっくりとすがり付くように彼女のスカートを握る。あえて目は伏せ目がちに、そういうことを知らないガキを装う。
「う……」
「僕を虐めないよね? 痛くしないよね?」
「……ただベッドで寝てくれれば……寝ろ」
おいおい。強い口調が出ているぞ。彼女の体臭が変わる。汗をかいている。これは、戦闘民俗の特徴で相手に腕を捕まれたりされないように汗をかくのだそうだ。
乱雑に脱ぎ地らかせれた服の下から筋肉質なからだが顔を出す。その腹筋の割れた腹を優しく撫でると彼女はなんとも言えない顔をした。
犬には触られては嫌な部分がある。例えばお腹は内蔵に近いから攻撃させると死ぬので、信頼していないひとにはさわらせない。また、手は、攻撃するのに使うので捕まれるのは好きではない。
でも彼女は、指を絡めても握りしめても身動きひとつとらなかった。
「ねえ、甘えても良いかな? 僕にはお母さんがいないんだ。ね、今夜だけお母さんになってよ」
「眠るときに邪魔だから、ふ、服を脱ぎなさい」
「恥ずかしいから下着だけは着てても良い?」
「いいぞ」
じゅるり、と唾液を飲む音がしたが、食うつもりではないね?
滑り込んだお布団のなかはまだ冷たかった。
体を押し付けるようにして彼女が入ってくると、その女性らしい柔らかな体にどぎまぎとする。
「嫌だったら言うんだぞ」
僕は怖くて言葉がでないふりをした。
声を殺して、震えて、小鹿みたいに。
若くて活発な女性との添い寝は、息を飲むものであった。