現実
壊れた奴隷を買い取りますって言ったら、主人は喜んで奴隷の小屋に連れて行ってくれた。
奴隷さんは主人の家とは違ってずっと小さくて臭かった。掃除されていない公衆トイレ並みの臭気だった。
中にいた奴隷さんは女性で目が綺麗な青だった。
奴隷さん腕無くて断面黒くなっていた。しかも寝床は干し草の上で麻ひもが足と腰に結ばれていた。こんなひどいことってないよ。口に金属製の器具がはめてあって、ご飯の時その穴から大麦を粉にひいたものに水を加えてビチャビチャにしましたというひどい物を食わされていた。
食べたがらない奴隷に食べさせるのってどうすると思う?
口に棒を使って押し込むんだ。奴隷さん無理やり食べさせたら吐いちゃうよね? だから蓋をして吐けないようにするのだけれど、器具と口の間からじゅるじゅると溶かしたご飯が出ていた。
「飯を食べないんで来週には死ぬ。買ってくれるなら助かるよ」
「品評をするのでちょっと出ていてもらえますか?」
「それは良いがよ、その、なんだ。口輪は外してくれるなよ。つけるのに苦労したんだから」
俺は先払いとして銀貨一枚を渡しドアが閉まるのを待った。
ばたんとしまったところで口輪を外そうと首の後ろに手を回す。
あのですね、見てられませんよ。吐きたいのに蓋があってゲホゲホキューッと変な音が喉から鳴っている。死んじゃうよコレ。
頭の後ろのベルトを外して引っ張るとずるるるるるっと管が60センチくらい出てきた。青い目は涙に溺れて口から逆流した食べ物が床一面に広がった。
「臭くてごめ……ゴビョビョビョボ!!ゲエエ!!」
「大丈夫ですよ。あの人がやったんですね。俺殺しましょうか。そうしましょう」
はい!悪魔さん!!仕事時間です!!
「あれは奴隷ではないと思いますが」
「悪魔さん何言ってるんですか? 人間なんて誰もが時間の奴隷なのですよ。誰もが時間からは逃げられない。平等に死はやって来る。彼には三日後できるだけ苦しんで死ぬやり方で殺していただきたい」
「契約では眠るようにころせと」
「爪2本分」
「契約以上のことは」
「右手の爪全部」
「……しょうがないなあ!」
機嫌よさそうだった。変態め。でも爪は魔法を使うと剥がれますのでね、ちょうどいいのです。幸い悪魔は正常な爪とは指定していない。
はー痛いぞ~!!い、そ、が、し、く、なるぞ~!
げーげーしてる奴隷さん可哀想だね可愛いね。うんうん。大丈夫だよ~気持ち悪いの全部出そうね~。
「う、う、う」
泣いてた。そりゃ嫌な思いしたものね。大丈夫です。なぜなら私魔法が使えますので。ちょろっとよ。青し光をピカってやって肩の黒いの無くなった。腕を生やすのはちょっとまだできない。一週間くらいたぶんかかるねこれは。何でかっていうと腕を生やすのに骨を伸ばさないといけないわけで、そのためには彼女の力の体力の回復を待つ必要もあった。
はい、口気持ち悪いだろうからクッキー食べる?ん?
「?」
俺は泣いた。いやー心の無い俺が泣いた。
何を見たと思う? ごめん心してね?
歯が無かった。まだ17、18くらいの女の子だよ? 歯が無いわけないじゃん。抜かれたんだ。あーもう胸糞。
それでクッキーをじゅっじゅって音を立てて食べている。上顎に舌で押し付けて吸っているんです。
「おいひい、おいひい」
「うん。もっと食べていいからね」
ちょっと悪魔!!あいつのこといっぱい痛めつけて!!!
夜眠れないくらい痛めつけて!!
『御意』
まずはお風呂。
帰りの馬車の中で会話は無かった。これが奴隷の現実だった。