小さな太陽
「こっちが先に届いたか」
身の丈140cmに届くかどうかといった少年は腕組みをして一本の筒を見下ろした。
筒は直径40cm。長さ100cmほどの金属製で銀色に光り輝いている。筒を覆い隠すように張り巡らされた導火線はまるで化け物の内臓のようであった。
これはコアと呼ばれるもので、筒の端にプルトニウムと黒色火薬が詰まっている。両端のプルトニウムが接触することで核反応が誘発される。世にいう核爆弾である。
その時ふと誰かの視線を感じた。
その人物は天井に貼り付いたまま銀色の鱗に覆われた手を楽し気に振っている。体を一回転させ驚くほど高い天井から落ちて来た。その生き物は、四つん這いで着地をし、服の皺を気にしている。俺の視線に気が付いたその人物は恥ずかし気に顔を赤らめた。
「人が多いのは好きじゃないのですよ」
頬までをそばかすのように鱗が覆い、全身を生きた鎧で固めた人物。宝石のようなとも表せる中性的な美形はうっすらと笑みを浮かべている。神様は実に傲慢で人の形をそれぞれ区別するいい例だ。まるで職人が美しく作ろうとしてそうなったかのような肉体は、見る者を魅了する。
それなのに人に関わるのを嫌い、いつもナイフを腰に下げている。
「久しぶり」
鱗の少年は実に不機嫌そうに人差し指で俺をつついた。
「久しぶりに会ったのにそんな反応なのかい? ずっとそばにいたというのに」
「まさかトイレや風呂まで一緒に来ていないよな?」
「……」
これである。この世界にはプライバシーと言う物はないのか。いったいどこで俺は本性を出せばいいというのか。
人と仲良くできる自分は、全部偽物だった。相手のことを第一に考え行動するふり。そういう人間が人気者になるのを俺はずっと見て来た。だからその真似をしている。今ここで本性を見せたらこの家のメイドさんの多くはこの家の仕事を辞めるだろう。
「で、それはなに?」
「これは『コア』だよ。多分この世界で最も強力な武器」
鈍色の目が興味深げに筒を見ている。先の大戦でたった一発で数万人を殺傷した兵器だとは思うまい。これは確かにそういう武器だった。その中心温度は金属を溶かすどころか、蒸発させてしまう。奇しくもそれは、人が作り出した物の中で最も太陽に近い物だ。
「これから試しに行くのだけれど、一緒にくるかい?」
誰もいない平原に核爆弾設置したぜ!
「クソはすんだか!? 神様におねだりは!? 腐った世界にサヨナラは? ファッキンビッチ!」