血の赤
女性服はオーダーメイド。女性服だけでなく、紳士服も、下着も、靴下もそのすべてが職人の手作りだった。体への完璧なフィット感は工場で作られた量産品とは比べ物にならない。一方で値段が高いことはもちろん、製品が手元に届くまで長い時間が必要だった。
だから、人に服を借りるというのは現代日本以上に難しいことだった。特に下着は直接デリケートゾーンに触れるものだから、気にする。他人には触れさせない。だから借りることができない。採寸のために職人を呼んだが、来るのは最短でも明日になるとのこと。仕方なく俺の部屋にいれ、シーツを手に取った。
真っ白なシーツ。これも貴重なものだが、裸一貫の女性をこのまま立たせておく方が忍びなかった。ナイフを使い穴を開ける。
できたものは頭を穴に通すだけの実に簡単な服で、前後に垂れた布を腰の部分で縛るだけ。服と呼んでは怒られるようなものだった。
「サイズ的にはオーロラのを借りれば着られると思うのだけど、ごめんね」
「オーロラ……女か? 他の女を可愛がっているのか」
首に指が当てられた。指がゆっくりと押し込まれ、気道が塞がれる。息できない。腕をひっぱたいても引っ掻いても全然動かない。首に深々と食い込んだ指はドクドクと脈打つ俺の動脈で震える。
「君は、美しい。生きている美だ。……ほしいなぁ」
「君は、俺を、殺す、つもりか?」
腹にナイフを当てた。当てただけでは切れない。だが首を絞められているので手が震えはじめる。入れ墨の上にジクジクと赤い血が滴った。
首を絞められているために、視界は赤黒く染まっていく。
少しでも酸素を吸おうと開いた口に唇が重なる。キスしてる。キスのしかたが怖いんだが。逃げるとでも思っているのか?
「おいしい……」
「……次するときは普通にしてもらって良いですか? 死ぬんで。」
「?」
「チュウ、練習しよ? ね? 普通に唇を合わせてお互いの感触を確かめ合うんだ」
チュッと合わせただけ。残念ながらこの人とのキスは臭い。
「あなた様は、私が恐ろしくないのか……? お逃げにならない。ああ……ありがたき、もう一度、もう一度」
「歯磨きをしたら、またしてあげます」
「……私の手から逃げるつもりではないか?」
「そんなことしませんから。ね? 歯磨きです。あとお風呂も」
なんで人の姿になったのだろう?
その入れ墨はなんなのだろう?
聞きたいことは山ほどあった。
女は自分の腹にできた生傷に爪を立て、指についた血をゆっくりと俺の唇に塗る。まるで化粧をさせるみたいに。確かに赤いが、それは口紅ではない。血液の赤色だった。
「美しい人。誉れ人。我らを愛する人」
たぶん喜んでいる?のだろう。気持ちがわからないので俺は毎回想像するしかない。