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優しさとは何なのか

 金持ちの家の遊びは狩りだった。


 残酷に思われるかも知らない。だから魚釣りと同じだと思えばいい。魚釣りなんて毎回釣れるものじゃない。

 それよりも、どんな良い竿を使っているかとか、ルアーはなんだとかそういう話で盛り上がるわけだ。あ!新しい竿を買われたんですね!なんて。


 これが、狩りだと奴隷を何使っているかという話になる。しかも奴隷は遺伝でケモケモ度合いが変わるから、それでどれだけ荒くれものを飼っているかで持ち主の技量まで計られた。ケモケモしていればしているほどなつかないのだそうだ。                      

 通常、気のたった(薬物等で無理矢理興奮させた奴隷を使うことも)奴隷を使うそうだ。雌の方が気が強いとも言われている。


 大人達がそんな遊びをしているので、子供まで同じことをする。

 意外だったのは、お兄様、俺の、猫耳お兄様がそれをやっていること。

 優しい兄上に生き物が殺せるのかと。そういう話である。できない。たぶん奴隷にさせている。どちらかと言えば友達がほしいのだろう。狩りをする友達がね。


 俺はといえば、どんな狩りをするのか気になったし、靴の性能検査ということで、奴隷達と同じ列にならんで開始を待っている。


 すごく狩は難しい上に、相手は体重60キロほどの哺乳類。最悪人間も食べる。イノシシが子供を生きたまま食べたという記録もある。俺は邪魔にならないように後から追うような形になる。


 奴隷達から見れば、何をしているんだろうという感じだ。猟犬の中にガキが混じっているのだから。この人は俺を同じ奴隷だと思ったらしい。


「お前さん、耳はどうした? 切り落とされたのか? 家はどこだ?」

「グローレス家です」


 可哀想にと肩を叩かれる。俺達は良く似ていた。見た目がね。ほとんど人間と変わらないのに奴隷として生きなくちゃいけないのは、おかしい。

 それで、狩りなんて命がけだから。


 俺達は号令と共に山に入った。


 山の中は下草がしげり、茎の細い草が体に絡み付いて前に進めないのですよ。それが普通なのです。笹みたいな葉っぱは固くて、端はカミソリみたいに鋭利で身体中血だらけになる。

 それでも走ると胸がいたくなって手をつく。太い幹にはバラの花みたいにトゲか立ち、それが手を貫通した。


 くううう。マジで死ぬが。獲物のにたどり着く前に死ぬが。

 名前も知らない奴隷のお姉さんがひょいと背負ってくれて山を走った。


「バレないように頑張れ」

「す、すみません」


 不甲斐ない。筋肉ない。骨も細い。足手まといだ。


 山の頂上の方で歓声が聞こえた。誰か仕留めたらしい。


 ドスンと音がした。


 ブルブルと震えたかと思うと、奴隷のお姉さんが倒れた。


 見れば腹に大きな穴が。

 肉が零れ落ち、黒く焼けただれた皮膚が背中までめくれあがって、内蔵が、穴の中にない。


 撃たれたのだ。魔法で。


「大丈夫ですか!!生きてますか!!!」

「……怪我はないか?」


 人の心配してますけど、この人ボロボロなんですよ。人の入らないような山に入れられて、それで、殺されたらたまらない。

 今も傷口からどす黒い血が流れ、枯れ葉を染めていく。


 ううう。僕は魔法を使う。このままだと死んじゃうから。



 腕から漏れた青い光は、女性の体をなめるように包んだ。

 傷口は巻き戻しをするように直っていった。ボコホゴと傷は泡立ち、失われた皮膚はシュウマイの皮のように縫合される。飛び出た骨が最後遅れて腹に戻った。

 それを見て急いで魔法を止める。周りの木々まで大きくなっていた。それは明らかに自然の法則に反したものだった。あまり使ってはいけない。


 誰やろうなぁ。撃ったのは。

 こんないい人を撃ったんだからそりゃあ動転してるだろうなぁと思って近づくと「奴隷は前にたつな」と「目さわりだ」と。


 男として、許せんわけですわ。

 なんなん? 人の命をなんだと思ってるん?


 俺は相手の身長高かったので顎狙って殴った。パコーンというこぎみよい音と共に顎がずれる。口から噛み契られた舌と砕けた奥歯がごぼりと零れる。白目向いて血を吹きながら倒れていった。

 猪の糞の山に顔を押し付けて伸びておられる。


 ざまあないね。俺は人の痛みに疎いのだ。血を見てやっと何か感じるぐらいの。


「大丈夫だよー死んでないよー」

 顔は傷が残るので魔法でなおした。

 それで俺はゆっくりとお腹に手をのせて魔法を使った。へへへへ。目に見えない病気なんて沢山あるのだ。それはもう、ごまんと知っている。


 俺は癌のことを思った。医学が進んだ日本でも完治させるのが難しい病気。これは体が腐る病気ではない。体の中、あるはずのない場所に細胞が作られてしまう病気だ。


 たとえばこの人の大嫌いな獣耳。これを頭の上に増やしたらどうなるかな?

 そして尻尾の細胞。これを使ったらどうなるかな?


 人間の胎児には尻尾がある。

 それは人間が動物であった名残。奴隷を大切にしないこの男は、自分が奴隷と同じ姿になるのだ。

 切り落としても良い。痛いけどね。でも考えてください。ガン細胞は切除すれば100%完治しますか? 

 答えは飛び火することがあります。というのとです。この魔法は意識が大事なのだ。癌を知らないと治せない。

 逆に言えば俺は癌も完治させられる。これはそういう力だ。


 何もなかったように起き上がった男に俺は笑いかける。

「おはよう。お寝ぼけさん」


 こんにちは。肺の中と頭の中にも贈り物を。

 何で神様はこんな病気をいい人に送るのか俺にはわからない。こういう酷い人間にこそ相応しいと思うのだが。


 その頭にはもう一組耳が生えた。


 奴隷さんたちガン見。それで俺のことをジーっと見て、黙っていた。ごめん。



この世界の不幸な奴隷ちゃんたちをなんとかみんな幸せにしたい。

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