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特別な贈り物

 俺はほどよい疲労感の中で生きている。


 意識に霞がかかったように自分と世界がうまいこと混ざり合わないような感触に陥る。まるでコーヒーに突っ込んだ安いミルクみたいだ。頭はずっしりと重く、思考は浅瀬をチャプチャプしている。

 昨晩頑張りすぎた。オーロラに寝ろと言われたが、ワクワクすると途中で止まらなくなるたちの俺は、図面作成の最後までやってしまった。直接靴やさんにまで持っていってしまった。早く作りたかった。とにかく早く。出来上がりがワクワクである。彼女はどんな顔をしてくれるだろうか。

 

 朝御飯の席についたが、まだ料理は運ばれていなかった。後からゆっくりと蓋のされた料理が運ばれてくる。今日は熱々を提供してくださるらしい。流石だ。流石金持ちの家は違う。

 蓋がはずされるとジューッという肉の焼ける音と、油が跳ねて旨そうな匂いが広がった。

 朝御飯は動物の舌を香草と一緒に焼いたものだった。そのコッテリした香りに腹が壊れそうなほど低い音を出す。

 アリッサは、俺の耳もとに顔を近づけて「私が特別にご用意いたしました」なんて囁く。


 なんだなんだ?


 見れば父の皿からは湯気が上がっていない。そればかりか、筋が真っ白に浮かび上がるほど差していて、肉にナイフを何度も擦り付けてる。ノコギリじゃないんだぞ。


 俺の皿は良い赤み肉。うん。違う。グレードがまるで違う。その柔らかさは、フォークを押し付けるだけでサクッと刺さるほどだった。


 このまま切らずにかじりついてみよう。

 

 「うん。旨い」


 俺は肉が好きだ。

 野生の肉は質が良いくらいなんだが、発情期の動物の肉は栗の花の臭いがする。それに血抜きに時間をとらないと臭みが抜けない。美味しくするには手間がかかるのだ。

 だが、これは……。

 肉に噛みつくと、断面から熱い汁が吹き出る。

 アッ!!熱い!!


 ゴクゴクと熱い汁が喉をつたう。なんだこれは!

 味は、うんまい。ああ、うんまいなぁ!

 にんにくをベースとした塩コショウのシンプルな味付け。それが肉の味を邪魔していない。新鮮な肉のぶりんぶりんした食感と、零れ落ちる肉汁。

 アリッサは他のメイドさんと一緒に壁際にたっている。


 ハッと見てしまう。この、料理上手めー!!!


「俺は、アリッサの作った料理で育ちたい!」


 能面のようなすまし顔が、ニヘラと崩れる。


 これは、天才的だぞ!!


 目で最大の賛辞と、今夜来るようにと伝えてみた。たぶん今夜には靴が届くから。すぐ履かせたい!

 オーロラから咳払いが聞こえる。ごめんよ。あとで一緒に食べようね。これ滅茶苦茶に旨いぞ。



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