六本目の指
この前買ったデッカイ女の人は、アリッサちゃんという。身長が3メートル近くあって、おっぱいに溺れる。それで腹は腹筋が割れてるし、けつもでかいというなんかもう、すごい人なんですけど、足も大きかった。30cm位の靴を現状はいてらっしゃるのだけれど、脹ら脛まである長いブーツで履きにくそうだし痛そうだった。
何を隠そうその靴も木製靴底だからね。地獄かよ。
彼女を先に呼んだのは滅茶苦茶丈夫そうだからであった。要するに耐久試験をこの人にやってもらうということ。残念だが計算と完成した物とでは解離していることは良くあった。材料はすべて同じ特性を持つ訳ではないからだ。例えば皮は乾燥させる段階で小さなひび割れを生じる。その小さなひび割れこそが全体を崩壊させる原因足りうるのだ。
そもそも物理法則自体、自然現象を証明するために計算式を後から付け加えたものに過ぎない。我々人間はあまりにも非力。自然に勝てるわけなどない。
デカくて重い靴を脱がせると、膝下から毛皮。うん。モサモサしている。毛深いというより、なんかもう獣なのである。
しかも革靴なので蒸れて当然。かわいそうに。こんなのを無理矢理はかされた脚は摩り傷だらけだった。
「だ、ダメです坊っちゃん! き、汚いから!」
「汚くないよ。大丈夫だよ気にしないから」
なぜなら俺もその地獄を身に付けていたわけで、今解放されているが、もうちょっと通気性は確保したいと思っているところ。うーん靴底に穴を開けるのが手っ取り早いのだが雨の日にグチュグチュになるのでそれはダメ。
ふんふんふんと足をブーツから引き抜くと、ビックリした。
あの、アリッサさん、足の指六本あるんですが。人間と同じところに5本はえていて、その他にくるぶしの辺りにもう一本鍵爪のような指が生えている。
これは残酷な話だ。その指はブーツのなかで押し潰されていたのだった。
我が父は以外にもそういう人だった。彼女達の身体的特徴を考慮するならば人間用の物を与えるのは明らかな間違いであり、ドレスコードも何もあったものではない。これは拷問だった。
というか、それその物が目的なのかもしれない。下手に自分達よりも優秀な種が歯向かってこないようにしている。
尻尾が荷物を運ぶのに邪魔だと言う理由で切り落とされた子もいる。耳が影になるからと切り落とされた子もいる。人間くそやな。
「指な、六本目の指はそとに出しといた方がいいよね? そのほうが痛くないだろうし。父さんにはばれないように設計する。それと、この脹ら脛まであるのはどうしたい?」
「毛がある脚は、不快ではありませんか?」
おかしな事を聞くなと。
「俺には頭に髪の毛が生えている。じきに脇の下や股にも生えてくる。不快ですか?」
「あははは!そうですね。不快ではないですね」
とりあえずハイカット位の長さで良いだろう。軍用ブーツのジャングルブーツぐらいの丈、細身で、横から六本目を出す感じ、で、後は……。
足の構造を見ていて思ったのだが、この形は、人間とは違う。そりゃそうなのだろうけれど、つま先立ちで歩くことが前提になっているような気がした。
どういうことか。
足の裏に当たる部分がないのだ。
あったのはやけに細く長い足首で、どうにもバランスがとれていない。
「ちょっと立ってもらえます?」
アリッサは違和感なく『つま先立ち』で立ったのだ。
この人間の業の深さよ。父は、奴隷達に人間と同じ振る舞いを強要しているのだ。
それは、目で見て美しい面だけを評価するのと同じこと。
父は、踵を地面につけた歩き方を命令し、実際にさせている。
俺たちに当てはめるならば、常に膝をつけた状態で歩けと言っているようなものだった。
泣いた。心のない俺でも分かる。
これは差別だ。
「俺が何とかしてやる。まかせて。分からぬように、楽なように」
俺は、奴隷達のためにこの二度目の人生を使うことを心に決めた。