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神へと至る道

「いい加減こっちに戻ってきたらどうだ。ボウズ」


「父さん。でもどうしてここに」


 玄関をくぐってきた父は、少し見ない間に痩せたようだった。落ちくぼんだ瞳に力はなく、皺の寄った手はまるで老人のような有様だった。

 メイドさんもいるのにそちらのことなど見ることもない。まるで背景の一部として見ているような感じだ。


「イリス。残念だがお前は失敗作だった」

「……な、何のことですか?」

「お前は8番目の子、イリス計画最後の欠陥品として産み落とされた。俺の血が入っているが、誰もが期待していなかった」


「イリス計画?」


「そうだ。神へと至るイリス計画。その真なる目的とは、我々人類が次の神となる実験だった。この世界にはすでに神と呼ばれる存在が不在であることが観測により明らかになっている」


「はあ?」


「神の遺伝子を引き継いだ次の世代が必要なのだ。お前は何か不思議な物を見たことがあったのではないか?」


 言われてみれば、変な老婆を見たことがあった。何を言っているのか分からず、また姿を消してしまったため現れた理由も分からない。


「醜く腐った肉塊から生まれ落ちた哀れで孤独な赤ん坊。それがお前の正体だ。そしてそのまま殺されるはずだった。だがどういう訳か、ある日を境に人が変わったように次々と有益な物を作り始めた。我々は驚いたよ。その全てがこの世界には無かった物だった。まるでそれは神による世界の創造と同じだ」


「待ってください父さん。あなたは奴隷商でしょう? そんな変な計画に加担していたなんて」


「いいかイリス。何も持っていないガキが己の手1つで何を成し遂げられるというのだ。全ては筋書き通りだったのだ。彼らは俺の人狼としての血を欲していた。ただそれだけに過ぎない。お前に至るまで十万の人間の血が流された。他の純粋な人間では『神』と呼ばれる存在のエネルギーを内包すると壊れてしまう。生物的には死に至るが、時折生き残る物もいた」


「もしかしてそれは」


「あの館にいる者達だ。全て素性と記憶を書き換えてはいるが、神の劣化版。全ては人類が神へと至るための実験の副産物に過ぎない。我々はお前があれらを開放し、従えていることに何の疑問も持たなかった。お前こそが腐った血肉で出来た神の子であるからだ」


「……神の子だったとして、人間はこれから何をさせたいのか」


「人間による人間だけの世界の構築」


「人間は奴隷達の故郷を荒らし、人権を踏みにじり、森を切り裂いて農地にしたのにまだ足りないのか」


 僕を乗せたメイドさんの体が強張った。


「ああ、足りない。彼らは純粋に人間の幸せを祈っているのだ」


「人間だけの世界になった所で戦争は無くならない」


「そんなことは分かっている! だがもう始まっているのだ。さあ、お前の力でこの世界を壊し、再構成するのだ。ゴホゴホッ!」


「残念ながら父さん。ここまでのようだ」


 父は乾いた咳をはじめていた。

 うつろになった眼は虚空を見つめ、光の無い世界をさまよい始めた。


 それはある化学物質による変化だった。狭い室内、換気の行き届いていない環境で吸い込めば微量で死に至る毒。


 この毒の良い所は既に解毒薬が存在することだ。メイドさんとワンコちゃんにはすでに食事という形で摂取させた。


「なに……を」


「父さん。それはサリンだよ。あなたの呼吸器と目の粘膜から吸収された」


 嘔吐と共に全身の痙攣、尿失禁が始まった。この世界の住人は日本のあった世界に比べて化学物質に触れる機会が圧倒的に少ないため、その症状は重くなる。

 すぐに死がその黒い姿をもたげて姿を現した。

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